壬生義士伝 下

白虎隊風な話が大好きで年末の特別番組なんかを目を皿にして探してる人へ、あるいは、親というものになって少し経った頃の人へ

  • ISBN(13桁)/9784167646035
  • 作者/浅田次郎
  • 私的分類/歴史小説(幕末・維新)・泣かせる話
  • 作中の好きなセリフ/

南部の士魂、しかと見届け申した。御家は断じて賊軍にあらず、佐幕にして勤王の雄藩にてござる


壬生義士伝 下 (文春文庫 あ 39-3)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 壬生義士伝の完結編
 飢えに苦しむ妻子を食わすために岩手南部藩を脱藩し、新選組に入隊した吉村貫一郎。認められて幹部に抜擢されたが、時代の趨勢は徳川幕府に利あらず、新選組をとりまく状況も悪化の一途をたどる。
 時代の奔流に呑み込まれようとする吉村と、そこから彼を解き放とうとする吉村の同僚たちの葛藤。
 一方、その奔流は、吉村が国元に残してきた妻子たちをも包囲し始めていた。
 守銭奴との嘲りに耐えて吉村は金を貯め、彼が養った子供たちは、いかに自分の人生を歩んだのか。
 とある記者(名無し)が吉村父子を取材し、彼らに深く関わった人たちが物語っていく。


【感想】
 上巻同様、泣けます。上巻よりも泣けるような、そして、良かったなぁ、と泣ける場面が多いように思います。その辺は、さすがに完結編です。


 新選組の立場が悪くなっていくなか、同僚たちは吉村だけはなんとか生かそうと、新選組から解き放つ努力をしますが、吉村はそれらを全て断ります。
 この本を映画で見た私の友人は「なんで死ぬのかワカラン。死に急ぐありさまが、わざわざ泣き場を作ってるみたいで、あざとい(だから武士が出て、泣いたり苦しんだりする話は苦手だ)」と一刀両断しました。仰せはいちいちごもっとも。しかしながら、映画では登場できなかった幾多の小ストーリーを読んで、その辺りは納得して欲しいところです。


 司馬遼太郎的な大づかみで当時の様子を理解すると、
 武士は建前を重んじ、何かやりたいことがあったとしても、本音とは全く違う建前論から理由になるものを探し出さないと、やりたいことができない。逆に、予想外のところで建前に足を取られて切腹させられる、なんてことも起こり得る。
 武士の世の中が終わりを迎え、武士が貧乏になっていくにしたがって、「武士と庶民を分けるのは建前だけ(建前がなければ、ただの貧乏人)」という世の中になっていき、やがてその建前そのものが世の中の流れに合わなくなって、建前の大本締めである幕府が倒される、ということになるわけですが、


 そんな「建前」を軸に、吉村貫一郎のストーリーを見ると、
 建前を破れなかったために妻子を食わせるのが困難になり、それがために建前を破って脱藩し、再就職口である新選組は激烈に建前が横行する規律集団で、その新選組ですら彼を生かそうと画策したのに、彼の意地がそれを許さなかった、ということになります。
 建前に翻弄されてる感じが、なにやら自分たちの会社勤めを思わせます。最期に登場した「意地」というのも別段大それたものでもなく、小市民的家族愛風なものなので、自分たちに似たものを感じさせて、それが泣かせる原因になってます。吉村とその家族が、どうなってしまったのか、最後まで気になってしかたありません。


 最後に、
 上下巻を通して吉村貫一郎の関係者を取材してまわった記者の正体ですが。最後まで正体は明かされませんでした。明治時代、実際に新選組を取材した記者、子母澤寛がモデルなのではないか、という推測もあるみたいです。
 私としては、かの記者は、生き延びた吉村嘉一郎の子供だったら、この話も随分救われた感じがするのではないでしょうか。
 未読の人にはなんのことやら、でしょうが、その辺は読んでいただくと、きっと分かる(ような、分からないような)と思います。


【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…2/5点(電車の中で泣くのは恥ずかしい)
読後に何かが残った感じがするか…5/5点(何か熱いものが残ったような気がする)
繰り返し読めるか…5/5点(間を置いて、何度でも読める。その都度新たな発見が)
総合…5/5点


壬生義士伝 下 (文春文庫 あ 39-3)
浅田 次郎
文藝春秋
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