真夏の方程式

サマータイムって、やけに疲れるな〜と最近困惑している人へ、あるいは、「容疑者醱の献身」が好きな人へ

  • ISBN(13桁)/9784163805801
  • 作者/東野圭吾
  • 私的分類/ミステリ・敷居の低い本
  • 作中の好きなセリフ/

「何かあったみたいだね。警察の人が来てる。でも僕には教えてくれなかった。大人はいつだってこうだ」
「くだらないことで拗ねるな。大人が隠していることを知ったって、君の人生にとって大してプラスにはならない」湯川は味噌汁を啜った。


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【私的概略】
 ガリレオシリーズの長編。ネタバレしないように注意して書きます。
 少年の名前は恭平。夏休みに親戚が経営する民宿に遊びに来ました。美しい海にちなんだ玻璃ヶ浦という名前のこの町は、海水浴場を中心とする観光産業が年々衰退していましたが、その海に有望な地下資源が発見され、町の人たちはこの発見をどう扱ってよいのか困惑しています。
 地下資源の開発に関する地元住民への説明会が行われるということで、湯川は技術協力者として説明会に参加し、たまたま恭平と同じ民宿に泊まりました。その同じ民宿に泊まっていた、ある老人が、説明会の翌朝、死体で発見されます。被害者は塚原という元刑事。彼も説明会に出席していましたが、玻璃ヶ浦とはなんの地縁も無い人物。これまで自然保護運動に参加していたという経歴もありません。


 塚原はなぜ、なんの縁もない玻璃ヶ浦を訪れたのか。さらに、これまた縁のないはずの自然保護活動、なぜ説明会に参加したのか。
 上司の命令で秘密裏に湯川に協力することになった内海刑事と草薙刑事が東京で別働隊として捜査し、徐々に手がかりをたぐりよせていきます。
 哀しい結末を予測して暗鬱とする湯川。冷静・合理的な湯川にとって不慣れと思われた「少年(恭平)との交流」が自然に深まっていくうち、湯川から最後に出た言葉「私は君と一緒に同じ問題を抱え、悩み続けよう。忘れないでほしい。君は一人ぼっちじゃない」。哀しい終幕の中にも、暖かな感動するラストです。




【感想】
 私の勤務先が6月からサマータイムを導入いたしまして。これが9月いっぱい続くんです。つらいですな〜、サマータイム。早寝早起きで健康に良いはずなのに、暑さも加わって、全く慣れません。帰宅時間が早くなってブログ更新頻度も上がるかと思ったら、帰宅後はソファでウツラウツラばかりで、嫁さんに超怒られてます。
 「サマータイムデッドゾーン」私にとっての『真夏の方程式』は、ただコレあるのみです。
 そんな感じで、ブログ疎遠になった言い訳をしつつ、グチとオチをつけさせていただきまして。。。


 本作でも、相変わらずクールですな。湯川先生は。
 とはいえ、今回はいつもと若干勝手が違います。舞台は東京を離れた田舎の海水浴場、湯川先生の脇を固めるキャストには恭平という少々ひねくれ気味の少年がいます。小学校高学年。こういう子は、います。本作のメインは、そんな少年と湯川先生の交流だと思いました。合理的な湯川先生が、少年のひねくれた(その分、不合理的な)考え方と真面目に衝突し、次第に仲が良くなっていくところが良かった。


 ラストで湯川先生が、悩みを抱える少年に向かって言うのですよ。「私は君と一緒に同じ問題を抱え、悩み続けよう。忘れないでほしい。君は一人ぼっちじゃない」なるほど、you'll never walk alone(※) ですな。この言葉で少年は悩みを抱えながら前を向く勇気を持つわけですが(要は悩みを乗り越えたわけですが)、同時に湯川先生も成長した感じです。上の結論的な「ガンバレ」言葉をかけるまでに、湯川先生がいろいろ話をするわけですが、実に理論的。大人が子供を諭すというよりも、年上の友人が励ますような態度です。私にも子供がいますが、彼女ら彼らが成長した時、こんな感じで接することができれば、と思います。


 最後に、本作全体の感想を。
 ミステリとしては「容疑者xの献身」の方が面白かったと思います。事件そのものは、さほど奇想天外なものでもなく、昔の社会派ミステリみたいな印象でした。事件の展開も、ところどころ唐突で、滑らかではありません。しかし、読んでいるときは全く気にならなかった。それは何故かと考えたのですが、唐突さの原因は、少年と湯川先生の交流を優先するために事件展開を無理に曲げたような感じ。読んでる時は彼らの交流に目が行っていたから、事件展開の唐突さには目が行かなかったのです。
 そう思って作品の題名『真夏の方程式』を見ると、ミステリっぽくない、ハートフルな題名に見えてきます。



Walk on, walk on
with hope in your hearts
And you'll never walk alone
you'll never walk alone
(歩き続けよう 希望を胸に
そうさ 俺達は一人じゃないんだ)




【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点
読後に何かが残った感じがするか…2/5点(湯川先生の成長ですね。ラストは意外に感動した)
繰り返し読めるか…3/5点(間を空ければ可能)
総合…4/5点


真夏の方程式
真夏の方程式
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東野 圭吾
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