壬生義士伝 上

剣が好きで好きで、寝床でも剣を抱かないと眠れない人へ、あるいは、親というものになって少し経った頃の人へ

  • ISBN(13桁)/9784167646028
  • 作者/浅田次郎
  • 私的分類/歴史小説(幕末・維新)・泣かせる話
  • 作中の好きなセリフ/

いい言葉だと思ったぜ。あれからの五十年、俺ァその文句に支えられてきたようなものさ。だが、とてもじゃねえけどこっぱずかしくって人にゃ言えねえ。それを大声で口にしたあいつは−やっぱし恥知らずだったのかねえ。


壬生義士伝 上 (文春文庫 あ 39-2)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 新選組幹部で「鬼貫」と恐れられた吉村貫一郎は、かつて、足軽という出身階級に縛られて貧から抜け出せず、南部藩(現岩手県)を脱藩した藩校の教師だった。
 国元に残した妻子を食わせるために新選組に入隊し、守銭奴と蔑まれ、あるいは、その人柄を慕われ、矛盾した印象を新選組隊士に残した。
 明治時代になって、ある新聞記者(名無し)が、彼のかつての同僚や後輩から、彼の生涯をにまつわる話を取材してまわる、

というお話の、上巻です。


【感想】
 浅田次郎氏が書く物語は、いつも上手いですな。読んで泣ける時も、笑える時も、感情の量を豊富にして泣いたり笑ったりできます。
 (私は、文学に関する難しい理屈は分からないので、上手い=本として最高と思っています。)
 そして、このお話は、泣けるお話です。

 ある記者が、明治時代になって複数の関係者から吉村貫一郎の昔話を取材してまわる、という筋で書かれています。
 取材らしく、同じ事件についても、吉村の後輩だった人から「これが真実だ」と聞いていたら、同僚が「別の真実」を持って来て、場合によっては、喋っている本人自身も、どれが真実なのか分からない、なんて感じで、どんでん返しが大波小波と連続してやって来ます。
 ネガティブなどんでん返しには「いや、そんなはずは無いよな(泣かせる話のお約束と違うもの)」という具合に、ポジティブなどんでん返しには「うぅっ(泣)、そういう話だったんか。吉村も健気なやつ。。で、それで?」という具合に、どっちにしても頁をめくる手が止まりませぬ。

 そんな波に軽く翻弄されつつ、読んでいる貴方が不器用な人だったり、そうでなくても妻子持つ身だったりしたら「吉村というのは、なんだか自分に似てるな」という感じがしていよいよ感情移入していくことでしょう。
 良く言えば若く爽やか、悪く言えば単純な新選組の中にあって、吉村は唯一、中年の悲哀を漂わす、場違いな「お父さん」なのです。 

 そんな「お父さん」と、国元にいる家族が、時代の急変に翻弄されつつ、最後はどんな運命を迎えるのか。全ては下巻になるまで分かりません。


【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…3/5点(電車の中で泣くわけには)
読後に何かが残った感じがするか…4/5点(残ったような気がする)
繰り返し読めるか…5/5点(3回くらいは読める。その都度発見が)
総合…5/5点


壬生義士伝 上 (文春文庫 あ 39-2)
浅田 次郎
文藝春秋
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【参考】
憑神http://d.hatena.ne.jp/z45ku5e/20100307/1267923121