あやし うらめし あな かなし

怖い話の苦手な人へ、あるいは、「怪談」を格の下がる文学だと思っている人へ

  • ISBN(13桁)/9784575512236
  • 作者/浅田次郎
  • 私的分類/怖い話(短編)
  • 作中の好きなセリフ/

「おたがいの親ならいいけど、ほかの人が寄ってきたらいやだな」
言ってしまってから、背筋に怖気を感じた。葉月は答えてくれなかった。


あやし うらめし あな かなし (双葉文庫)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 「文学の極意は怪談にあり」と浅田次郎氏が取り組んだ怪談短編集。


赤い絆
 関東の霊山で起きた心中事件の顛末。幽霊的なものは殆ど登場してないが、こわい。

虫篝
 父親のそっくりさんが家族の前にあらわれる。ラストの父親の少しおどけたような感じが逆に哀しい。あまり幽霊ぽくない。

骨の来歴
 最後に話がヒックリ返ったとき、読み始めから何となく感じていた違和感の正体を知る。やや西洋の怪談ぽい。良かった。

昔の男
 浅田次郎氏の他の作品と、どことなくかぶっている。そういう意味では浅田次郎氏らしい作品。

客人
 正統派な怪談話、だと思う。この、「だと思う」と読者に断定させないところが、良かった。

遠別離
 浅田次郎氏の他の作品と、ハッキリかぶっている。浅田次郎氏得意の型にはまった作品。こういうの好きです。

お狐様の話
 正統派な怪談話。徐々に悪い方向に向かっているのが明らかなのに、どうにもならない感じが、正統派。巻末の自作解説で、本当にあった話を題材にとったということで、さらに怖くなった。



【感想】
 本の紹介に『「文学の極意は怪談にあり」を見事に体言した七つの優霊物語』とありました。「ふ〜ん。上手い作家は怪談を上手に書くのか」と思って購入しました。怪談を扱った本はたいていが短編集。書評ブログを書いてて気づいたのですが、私は短編集がどうもツマラない。各編の印象が薄くて余韻が残らない。上手い作家である浅田次郎氏の怪談に期待半分あきらめ半分で読んでみました。。。が、確かに面白い。私の好きな「壬生義士伝」や「一刀斎夢録」に比べれば印象が薄くなりますが、私が読んだ怪談本の中では上位ランクインです。特に何が良かったかというと、怪談の醍醐味であるお化けがヒュ〜、ドロドロドロ、というのが無い怪談話。私はヒュ〜ドロドロが好きな性質なので、怪談話でそういうのが無いパターンの話を読むと損した気分になってしまうのですが、本書のは、良かったな〜、と思います。さすがは浅田次郎氏です。


 巻末の文庫版特別インタビューも、また善し。創作秘話で作者が怪談をどうとらえているかがよくわかります。自作解説を読んでから本編を再読するのも楽しいです。先に自作解説を読むとネタバレになりますが。それはそれでも良いかもしれません。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点(読めます)
読後に何かが残った感じがするか…2/5点(御岳山なる関東の霊場の存在を知った)
繰り返し読めるか…3/5点(2,3年後にもう一度)
総合…4/5点


あやし うらめし あな かなし (双葉文庫)
浅田 次郎
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