バガージマヌパナス わが島のはなし

沖縄の民俗が好きな人へ、あるいは、ゲラゲラ笑ってなおかつ泣きたい人へ

  • ISBN(13桁)/9784167615017
  • 作者/池上永一
  • 私的分類/ファンタジーノベル・石垣島の民俗
  • 作中の好きなセリフ/

煙草を吸いながらあぐらをかいて食卓につくと、いつも新聞ばかり読んで無口な父が、久しぶりに綾乃に声をかけた。NHKしか受信できないこの島で彼はテレビ欄を食い入るように見て、教育テレビの幼児番組と総合テレビのどちらを見るのか吟味することが朝の仕事である。
「今日は”中学生日記”を見よう」
と決めたあとに綾乃に声をかけたのであった。


バガージマヌパナス わが島のはなし (文春文庫)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 第6回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
 石垣島でもダントツトップの怠け者、仲宗根綾乃は、意外なことにサーダカー(神と交信する能力が高い性質)の生まれです。地元の高校も卒業し、生涯この島で何もしないでダラダラ生きていこうと固く決意している綾乃のもと、ある日突然神様からの指令が。「ユタになって島の信仰を守れ」という、屈指の怠け者には、とてつもなくハードルの高い要求でした。ユタとは、神様と交信してメッセージを島の人に伝えるという、信仰上重要な役割を担う人です。


 「誰がやるか!」神様何するものぞの強い拒否を繰り返す綾乃と、脅したり、なだめすかしたり苦心惨憺を繰り返す神様との壮絶な一騎打ち。綾乃の唯一の大親友、86歳のオージャーガンマーとの無茶な遊びの数々。強引強欲ユタのカニメガとの死闘。石垣島の方言と豊かな信仰伝承を舞台に、ドタバタして笑わせてホロリとさせられる、石垣島ファンタジーの話です。




【感想】
 面白かったです。
 池上永一氏の代表作「風車祭(カジマヤー)」と比べると、ストーリーこそ違えども、舞台や雰囲気がよく似ている内容でした。「風車祭」が面白かった人は、本作も「買い」です。


 池上氏の作品で私が最初に読んだのは、「風車祭」でした。そこから芋づる式に池上氏の作品を掘り出して本作品に至ったわけですが、両作品は、ストーリーは違う。なのに、すごく似ている。「その理由は、どちらも石垣島の信仰を主軸にしたオモシロカナシイ話だから」などという客観的かつ面白味の欠片も無い分析的解釈で良いのか。「主人公と脇役たちのユンタク(おしゃべり)が超面白いから」などという表面を軽くなでただけの軽量級解釈で良いのか。「ファンタジーを楽しく読みながら、石垣島の方言や信仰など、石垣島の民俗も学ぶことができます」などという何をするにも利益がなければならぬ転んでもタダでは起きぬ効率追及現代社会風解釈で良いのか。
 この感想を書くにあたって色々考えて、読む人がアッと驚くような斬新解釈を目指したのですが、残念ながら思い付きませんでした。そんなモノすぐに思い付くくらいなら私が作家になってますね。でも、まぁ、今言ったようなことを全部含めて、面白かったのです。


 「風車祭」と比べると、頁数の大小、作者の知識蓄積量の大小(作品を書いた年の前後関係に左右されるもの)のせいで、本作品の方が少し小粒な印象です。が、娯楽小説としての出来は極めて高いのは間違いありません。「風車祭」を未読の人は、本作品を読んでから「風車祭」を読むという順番が、幸せでしょう。




【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…4/5点(電車内で笑いをこらえるのに苦労)
読後に何かが残った感じがするか…4/5点(石垣島のことが分かったような気持ちに)
繰り返し読めるか…4/5点(可能)
総合…4/5点(限りなく5に近い4)