プリンセス・トヨトミ

大阪を愛する人へ、あるいは、最近息子と話をしていない父親または逆に息子へ

  • ISBN(13桁)/9784167788025
  • 作者/万城目学
  • 私的分類/娯楽小説(現代・大阪)・面白い話
  • 作中の好きなセリフ/

「父から子へ大阪国の真実を伝える−我々が四百年間、続けてきたことは、たったこれだけだ。あなたはそれを無駄なことだと言うかもしれない。だが、そこには、かけがえのない想いが詰まっている。我々はこれからも“王女”を守る。たくさんの大切なものと一緒に、大阪国を守り続ける−これがすべての問いに対する、我々の答えだ」


プリンセス・トヨトミ (文春文庫)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 映画化作品。(ネタバレにならない程度の概略説明です)


 会計検査院とは、税金の無駄遣いが無いかを厳しく検査することをその職責とし、由緒あるお役所にして、立法・行政・司法の三権からも独立した何だかカッコ良い存在。その会計検査院第六局の副長は「鬼の松平」と異名をとる腕利きの調査官です。二人の部下、鳥居と旭を連れて出張した大阪でも、その才能はいかんなく発揮され、大阪府庁をギリギリに締め上げます。普段通りの検査を終えての東京帰京、直前で思い立ったのが大阪にある父親の墓参り。これが松平とストーリーの流れを大きく分岐させていきます。
 先に東京に帰った部下からメールで送られたのが一つの不審な社団法人「OJO(大阪冗談機構?)」の情報です。完璧主義の松平はOJOへの検査を行いますが、しかし、そこで目にしたものは、東京人の常識ではとても信じることのできないほど非常識で、なおかつ冗談なぞが付け入る余地の全く無い超真面目な存在だったのです。


 並行して走るもう一つのストーリーは、大阪空堀商店街の中学生日記です。真田大輔は地元の中学校に通う二年生の男子ですが、昔から感じていた、ある違和感をどうしても拭うことができず、悩みに悩んだ挙句、ついに一大決心をして登校しました。そんな大輔を守ろうとする人たちと、大輔を蔑み傷つけようとする不良たち、両者の狭間で大輔の決心は揺らぎ、惨めな思いにさいなまれ続けます。

 大輔とその周囲の騒動が、松平VS「OJO」の一騎打ちと交差した時、ついに大阪の秘密の扉がノッソリと表に現れたのでした!



【感想】
 色々な感想が湧きました。ネガティブだったりポジティブだったり、些末なことだったり、ストーリー全体に対する感想だったりです。


 まずは全体イメージからですが、「鹿男あおによし」や「鴨川ホルモー」のようなのを期待して読むと、やや期待ハズレです。そういった面白さ一辺倒からは離れたところを目指した感がありました。少し肩すかしのような気もします。
 ただ、(「プリンセス・トヨトミ」の題名通り)本書の素材の一つである「徳川家康に滅ぼされた豊臣家の遺児が生き残っていた」伝説は、私の好きな伝説です。素材が好きだったので、肩すかし感も軽減しました。さらに言えば、巻末付録の特別エッセイ「なんだ坂、こんな坂、ときどき坂」にある記載「あれほど晩年、(豊臣)秀吉が無様なまで、その無事を祈り続けた(豊臣)秀頼が、呆気なく(徳川)家康に攻め滅ぼされてしまうのが、どうにもやるせなかった。同じく真田幸村の学習マンガに、大阪の陣ののち、幸村が秀頼を匿って大阪城から逃げたかもしれない、という噂が当時根強くささやかれた−と書かれた番外コラムを見つけたときは、本当にそうであったらよかったのに、とさびしく夢想した」という作者の気持ち、私もよく分かります。何せ、「真田幸村の学習マンガ」というのは私も同じのを買って読みましたし、私も同じく「番外コラム」で「さびしく夢想した」クチだからです。
 著者略歴を見たら、私と同世代でしたね。作者は大阪、私は京都、似たような本を読めば似たような感慨を持つのでしょう。ということは、本書は(真田幸村マンガじゃなくて「プリンセス・トヨトミ」の方です)日本の中でも大阪の人が特に強く反応する要素があると言えます。
 巻末エッセイの最後に「つまり、『プリンセス・トヨトミ』は私なりのふるさとを書いている、といいうことらしい」と書かれているのとも一致しますね。


 後は些末な感想です。
 万城目作品の定番、登場人物の名前について。今回も登場人物の名前は歴史上の人物の名前、それも大体戦国時代の名前から取られています。東京から来る調査官は、松平、鳥居といった具合に徳川幕府の要人の名前から取ってます。対する大阪の登場人物は、真田を筆頭に、長宗我部、蜂須賀、後藤、宇喜多、小西等、関ケ原で大阪方についた人物や豊臣秀吉に縁の深い武将や地名から取った名前です。万城目作品を読むたびに思うのですが、私はこういうの大好きだったりします。ただ本作では、単に「名前を取っただけ」ではない設定もありました。そういう小さいどんでん返しも気付けばたまりません。
 あともう一つ、松平の部下の旭。この名前はどこから取ってきたのでしょうか?どなたか分かった方いらっしゃるでしょうか?


 どんでん返しと言えば、中学生の登場人物、真田大輔のキャラクター設定です。私は読んでる間ここだけは、ずっと顰蹙に近い違和感を感じてました。このキャラは結構深刻な問題なのに、こういうキャラにする必然性があるのかしらんと。必然性が無ければ安易なキャラ設定に読後感がイマイチになる危険すらあります。読んでて油断するとそっちばかりが気になりました。
 これも、最後は思わぬどんでん返しとともに「なぜ、こんなキャラ設定が必要だったのか」が分かるのですが、どんでん返された時、私は完全に一本取られてました。さすが万城目氏は人気作家です。(映画が原作を凌駕することは無いと思うので)映画化されても映画は見ませんが、この辺はどう表現するのだろうか興味はあります。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点
読後に何かが残った感じがするか…2/5点
繰り返し読めるか…3/5点(間を空ければ)
総合…4/5点


プリンセス・トヨトミ (文春文庫)
万城目 学
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