季刊サッカー批評 51 日本のサッカーは誰のものか?
Jヴィレッジが今どうなっているのか気にしてる人へ、あるいは、サッカーが好きな人全般へ
- ISBN(13桁)/9784575452266
- 出版社/双葉社
- 私的分類/サッカー辛口評
- 作中の好きなセリフ/
一流選手は、思考よりもまず体が動く。だから満男は考えるよりも先に、言葉に出たんだと想像する。
【掲載記事】
- Jヴィレッジの存在意義 (木村元彦)(8頁)
- 戦術から見る震災後のJリーグ 優勝を狙うための4つのタスク(西部謙司)(6頁)
- 大東和美チェアマンが語る 3.11後のJリーグ (宇都宮徹壱)(インタビュー記事・6頁)
- 被災地救援を支えた塩釜FCの絆 塩釜FC小幡忠義理事長インタビュー(木村元彦)(インタビュー記事・8頁)
- サッカーをスポンサードするということ キリン、サッポロ、アクサ生命に見るサッカーを支援する意義 (ミカミカンタ)(7頁)
- コパ・アメリカ事態の顛末を問う (元川悦子)(4頁)
- アルゼンチンサッカー協会会長フリオ・グロンドーナ 「私が日本の辞退に反対した理由」 (藤坂ガルシア千鶴) (4頁)
- ソーシャルメディアはサッカーに何をもたらすか? 対談 速水健朗×岡田康宏 (川本梅花)(インタビュー記事・5頁)
- いま、サッカーに何ができるか 反町康治、北澤豪、小笠原満男の肉声 (井上俊樹)(6頁)
- ジャーナリスト魂 反骨の守護神(前編) 日本代表GKからジャーナリストになった村岡博人の記者人生を追う (木村元彦)(5頁)
- 大木武監督が思い描く「理想の日本サッカー」 (後藤勝)(インタビュー記事・4頁)
- なでしこリーグと女子日本代表の羅針盤 (川崎三行)(6頁)
- ヤタガラスは誰のものか(前編) 障害者サッカーの現在地 (海江田哲朗)(6頁)
- 韓国サッカーの躍進を支えるエリート育成術 (慎武宏)(6頁)
- コラソン・ヴァレンチと呼ばれし男・ワシントン (沢田哲明)(6頁)
- Through the Gate スタジアムを見つめる多くの視線 (写真記事・2頁)
- Hard after Hard 山田隆裕 異端児の人生行路 (大泉実成)(6頁)
- サッカー番組向上委員会 (小田嶋隆)(3頁)
- ゴール裏センチメンタル合唱団 (綱本将也)(1頁)
- 日本サッカー戦記 試合に隠された真実 あの日、あの瞬間を戦った当事者たちの肉声 (加部究)(7頁)
- サッカー文芸 哲学的志向のフットボーラー 西村卓朗を巡る物語 (川本梅花)(4頁)
- 僕らはへなちょこフーリガン (川崎浩一)(4頁)
- Football/ORIGINAL SOUNDTRACK (東本貢司)(3頁)
- 本の紹介 (戸塚啓・鈴木康浩・東本貢司・実川元子)
【感想】
大震災を受けて、選手達やクラブはどう変わったのか。復興にサッカーがどのように関わっていくことができるのか。そういった観点の記事がメインでした。
(1)衝撃だった記事…Jヴィレッジの存在意義
日本サッカーの聖地と言ってもよい福島Jヴィレッジは、震災後、自衛隊や東京電力など、原発事故の前線基地となりました。かつて緑のピッチだったであろう場所に自衛隊の車両が入っていく映像や、使用済み防護服やマスクの仮の廃棄場所として山と積み上げられている映像等、Jヴィレッジの様子が断片的にテレビに流れると「分かってるつもりだったけど、これほどまでか」と、Jヴィレッジの復興までの工程を思って暗澹としていました。
それにしても、全くといっていいほど入ってこないJヴィレッジの情報が、この記事でよく分かります(私はこの記事があったから本書を買いました)。
会社の内規に縛られて危険地帯を取材できない「マスコミ」と、Jヴィレッジの様子を克明に取材したフリーのジャーナリスト。原発の作業員の下請け、孫請け、それどころか8次受け(間に会社が入れば入るほどピンハネ額も増えていく)という「協力会社」の実態。原発を誘致して交付金で潤ってたんだろうという噂が実は間違いであったことなど、ある意味、福島のことに限らず、日本社会の負の面の縮図のようなものを感じました。
(2)勉強になった記事…戦術から見る震災後のJリーグ
私の愛するモンテディオ山形が勝てません。失点は多く、得点は少なく、どうしたのだろう?と思っていましたが、この記事でなんとなく分かりました。今年は強固な守備ブロックを築いているチームが多いということ。昔から「強固な守備ブロック」を売りとしていた山形の長所は相対的に薄くなり、そもそもの短所である「得点力の低さ」がさらに強調される結果になっているのでは、と。
(3)なんだか愉快な気分になった記事…Hard after Hard 山田隆裕 異端児の人生行路
横浜Fマリノス等で活躍したイケメンJリーガー山田選手の、現役引退後の話です。現役中から「引退後のことを考えている人間も組織もJリーグには全く存在しない」ということに気付いて自ら行動を起こし、引退後は企業家になって仙台で一発大当たりさせて、上り調子が一転、ツマづいて訴訟沙汰になってしまった、という紆余曲折の異色な「選手のその後」物語です。これだけだと転落人生のような印象で、愉快な気分になんて、なるわけがありません。しかし、インタビューから伝わってくる山田氏の野太さ、失敗にめげず、普通に次の事業を企画している自然体な強さが、読者の私を、なんだか明るい気持ちにさせました。
(4)記者の執念を感じた記事…サッカーをスポンサードするということ
記者は、私の中の有名人「ケンカ・ミカミカンタ」氏です。『サッカー批評』のこれまでの記事では、日本サッカー協会のありとあらゆるところに噛みつき、インタビュー記事でも堂々と不審点を追求し、読んでいる私をハラハラさせてくれました。最初ミカミカンタ氏の記事を読んだときは「硬派な記事=批判的な記事」という安直な発想の記者なんだろうと思ってましたが、氏の記事を色々読んで、どうやらそんな単純な記者ではなさそうだ、ということにようやく気付いてきた次第。
そんなミカミカンタ氏が、今度はサッカーのスポンサー様に取材。サッカー好きとしては、かなり冷や冷やなシチュエーションです。「まさか厳しい突っ込みはしないだろう」という恐怖半分「いや、彼はヤル」という期待半分。スポンサー企業の訪問記事なんてツマラナイ記事になりがちですが、ドキドキしながら読んでしまいました。
全体としては、「強大な相手チームに対して守備的に戦いつつも、時折危険なカウンタ―を繰り出して玄人の観戦者を満足させ、ただしスコアは1−0で負け」みたいな印象の記事でした。
今回のサッカー批評は、メインの題材が「震災」なだけに、軽々な感想を持てないような記事が多かったです。
「『スポーツの力を信じてる』なんて言っても、何ができるのよ?」というシニカルな反応に下を向き、コパ・アメリカ辞退に憤りつつも「じゃぁ、どうすれば良かったんだ」と現実的なことを言われれば下を向き、震災の現場でクラブの連帯を生かして復興の主力になっている塩釜FCの話を聞いて上を向き、上を向いたり下を向いたり忙しく首を動かしつつも頑張りたいなと思いましたです。
【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…4/5点(震災とサッカーに関する記事は、やはり重い気持ちになります)
読後に何かが残った感じがするか…3/5点(非常時にならなければ気付くことがなかった、平時の地道な活動の存在というようなものが勉強になりました)
繰り返し読めるか…3/5点(原発前線基地になったJヴィレッジや、コパ・アメリカ辞退、震災復興に励む塩釜FC。数年後に心の余裕をもって読み返せるようになりたい)
総合…4/5点