赤いヤッケの男

本格登山にあこがれる人へ、あるいは、付き合ってる彼が登山にウツツをぬかして困っている貴女へ

  • ISBN(13桁)/9784840121705
  • 作者/安曇潤平
  • 私的分類/怖い話(現代・山)
  • 作中の好きなセリフ/

作者自らが体験した話もあるし、山仲間や、あるいは一杯やりながら山小屋のオヤジから聞いた話もある。
怪談というと、身の毛もよだつ話を想像しがちだが、不思議なことに山の怪談には、聞き終わって心が温かくなる話も以外と多い。


赤いヤッケの男 山の霊異記 (幽BOOKS)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 山がらみの怪談短編集。
 いかにも本当にありそうなリアリティを感じる話(読むと一人で山に登れなくなります)、あるいは、正当派な怪談話(病院に幽霊が出たりとか)、ホロリとさせる話から、気味の悪い話、各種取りそろえてあります。



【感想】
 久しぶりに、満足のいく「怖い話の本」に出会いました。
 安曇潤平氏は、相当な登山愛好家(氏のWEBサイト「北アルプスの風」なんかは、全て北アルプスで埋め尽くされています)。そんな氏の作品らしく、バリエーション豊かな山の怪談話です。


 最も怖かったのは、『八号道標』
 女の霊が、無関係な人間を死に誘うという展開が、ありきたりといえども、怖い!
 ありきたりなストーリーを、どんな新鮮な切り口で読ませるか、そこが怪談話の腕の見せ所ですからな。


 最も印象に残ったのが、『アタックザック』
 テントを張ってビバークしようとした場所に、持ち主不明のアタックザックが置いてあった、なんだ?という話。キャンプ場でもない場所に、それも大型のザックではなく(大型のザックなら、置き去りも有り得る)、頂上アタック用の小型のザックが(まず置き去りは有り得ない)置いてあるという状況が、なにがしかの凶事を想像させて気味が悪いですな。
 また、そのアタックザックが引き起こす怪事が、気持ち悪い!
 テレビの怪談番組でも用いられたお話です。それだけ秀逸だということですね。


 男的に同情したのが『残雪のK沢岳』
 残雪の寒い夜、山中にキャンプを張った男が出くわした怪異。やや面白。
 何が「男的に同情」なのかは、ネタバレにもつながるのでココでは明かせませんが、読んだ後、男性ならば「あぁ、なるほどね」と思い、女性ならば「男ってのはこんなことを考えるのか」と軽く呆れるかもしれません。


 25作品、大体1作品10頁前後、読み応えのある量で、物足りないなんてこともありません。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点
読後に何かが残った感じがするか…3/5点(怖くて山中泊ができなくなりました)
繰り返し読めるか…4/5点(私は読めますね)
総合…4/5点(満足のできる「怖い話」です)