怪談列島ニッポン 書き下ろし諸国奇談競作集

怖い話の苦手な人へ、あるいは、不気味な話が好きな人へ

  • ISBN(13桁)/9784840126748
  • 作者/雀野日名子有栖川有栖 他
  • 私的分類/怖い話(短編)
  • 作中の好きなセリフ/

そんな状態が十分近く続くのです。十分ですよ、十分。『サザエさん』の一話分です。


怪談列島ニッポン 書き下ろし諸国奇談競作集 (MF文庫 ダ・ヴィンチ ひ 1-1)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 日本で唯一の怪談専門誌と謳う『幽』(年数回発行)の執筆陣による、「各土地土地に棲む怪異」をテーマにした短編集。
 それぞれ1言つづ概要と感想を述べさしてもらいますと、以下の通り。


1.『弥勒節』恒川光太郎
 石垣島(?)の不思議な妖怪と、死者の魂をニライカナイへ送る曲「弥勒節」の話。ほどほどに妖しくて良いですね。沖縄チックな雰囲気が個人的には好きです。

2.『聖婚の海』長島槇子
 母に死別した少年が、遠く四国に住む異母姉の家に乗り込み、ある日突然出生の秘密を知る、という話。ストーリー自体は好きです。しかしテーマがどうも、、、いまいち健全じゃないというか、変というか、、個人的には合いませんでした。

3.『層』水沫流人
 両親が離婚し、母と2人きりの生活。周囲の視線やら、転校先の友達関係やらで不安と焦燥にさいなまれた少年が暴走する。という話。読後感がどうも、、、いわゆる怖い話とは違うような。。。

4.『清水坂有栖川有栖
 大阪の清水寺を遊び場にしていた少年と、妹の話。怖いと言うよりも、悲しいお話。有栖川有栖氏はこういうのも書くんですね。

5.『きたぐに母子歌』雀野日名子
 語り口が軽妙というか、剽軽というか。とにかくポジティブな感じです。北陸本線デッドセクション(電流の切り替えとやらで、電車内が停電みたくなるところらしい)に取り憑いた幽霊の話。幽霊に気付かない部長と、部長と幽霊に振り回される部下の組み合わせが、コント的。結末は単なるコントじゃないところも立派。

6.『山北飢談』黒史郎
 祖父が「決して行ってはダメだ」と言っていた「キカチ山」へ冒険に出た少年の話。山の怪異ですな。

7.『日本橋観光−附四万六千日』加門七海
 浅草浅草寺の四万六千日(1回お参りしただけで、4万6千日お参りしたことになる日。境内にホオスキ市が並び立つ)に、買ったホオズキを持って日本橋のオフィスに勤める友人の所まで届ける、というお話。妖しげなモノは登場するが、怖い話、ではないですな。

8.『熊のほうがおっかない』勝山海百合
 東北の古い温泉宿に集う幽霊の話。山+温泉宿と怪異のセットは「黄金のトリデンテ」的組み合わせですね。題名と内容の関係も○。

9.『湿原の女神』宇佐美まこと
 北海道の湿原で青年がバイク事故を起こして大けがをします。その事故の時、何が起きていたのか、と言う話です。まずまずですな。

10・『諸国奇談の系譜』東雅夫
 怪談話の歴史。後書き的な内容です。

11.幽 文庫通信
 滋賀は土地がらみの幽霊が多過ぎて、人のはいる余地がない、というエッセイが良かったです。今度行ってみたいな、と。

12.投稿怪談 境界線
 土地を巡る争いの話。争いの内容が実は、、、というどんでん返し的結末が、切れ味良かったです。



【感想】
 血がドバドバ出る、ホラーな話ではありません。そういうのではなくて、いわゆる幽霊やお化けが登場人物をビビらせる「怖い話」です。しかし、いわゆる「怖い話」というのとも多少違ったので、ややあてがハズレました。


 しかしながら、雀野日名子氏の『きたぐに母子歌』のインパクトが大きかったので、本全体の印象も悪くないです。旅先で幽霊に出くわすという黄金のストーリー展開に、怪談らしからぬ語り口の軽さ。短編・競作集の良いところは、そういったミラクルヒットに遭遇できたときですね。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点(読めます)
読後に何かが残った感じがするか…3/5点(興味深い作家さんを発見できた)
繰り返し読めるか…3/5点(2,3年後にもう一度)
総合…3/5点