世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析

テレビのサッカー戦評を素直に納得できない人へ、あるいは、友人を試合観戦に連れて行って良い格好をしたい人へ

  • ISBN(13桁)/9784774790404
  • 作者/宮崎隆司
  • 私的分類/サッカー(評論・日本代表)・教養(スポーツ観戦)
  • 作中の好きなセリフ/

懸命に走り続ける岡崎、途中交代で下げられる際にピッチに一礼する中村(憲)、自分が何とかしてやろうと燃える闘莉王、10番を泥まみれにして走る中村(俊)、小気味良いかけ上がりとクロスを見せる長友、知的にタクトを振る遠藤、献身とダイナミズムに溢れる長谷部、そしてチームのためになろうとひた向きにプレーする内田、才能と向上心に満ちた本田、主将の責任を全うしようとする中澤……など、もちろん彼らだけでなく、すべての選手が実に一所懸命プレーしている。それがプロとして当然のことであるとしても、こんなにも好感の持てるチームは、間違いなく、5人の監督たちが語るように「世界広しといえどもそう多くはない」。


世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス〜イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析〜 (COSMO BOOKS)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 南アフリカW杯の準備を進める岡田ジャパンの戦術を、主に守備面から分析していきます。
 分析するのは、イタリアを代表する戦術家5人。
 レンツォ・ウリビエリ氏(イタリアサッカー協会監督協会会長)/マルコ・ジャンパオロ氏(シエナ元監督)/ミルコ・マツッアンティーニ氏(FCエンポリユース監督)/シモーネ・ボンバルディエーリ氏(同じく)/アントニオ・アッコンチャ氏(イタリアサッカー協会技術委員会監督養成スクールディレクター)。いずれも、中小クラブの監督や、ユース監督で実績を残してきた人たち、屈指の戦術家が勢揃い。


 日本代表の守備面の問題は、
 ディアゴナーレ(敵のボール保持者との間合いを味方守備者Aがつめる際、他の味方選手BとCは、Aの左右斜め後方にポジションをとること、らしい)と、
 スカラトゥーラ(ディアゴナーレを実行する際等、選手それぞれが、ポジションを上げたり、味方が空けたスペースを埋めるために移動したりポジションを入れ替えたり、を、連動して実行すること、らしい)
の意識が欠けている=正しいゾーンプレスができていない、ということにあった、等々、枚挙にいとまがが無い、ということを、W杯予選や、親善試合の具体的場面から切り取って図にして解説していく、という内容です。



【感想】
 人選が良いですね。5人の監督たちは、育成や中小クラブの指導経験が豊富。守備戦術や、その指導に精通しているのは、有名ビッグクラブの有名監督よりも、こういう人たちです。
 イタリアサッカー協会の中心とつながりが深いらいい、宮崎氏ならではの選択ということなのでしょう。


 読後の一番の感想は、「特に守備について、試合を見る目が激変した」ということです。相手がボールを持っている時に、味方はどんなポジションを取るのが正しいのか、そう意識してから試合を観ると、守備戦術のレベルの違いが(まだ薄っすらと、ですが)見えてくるようになりました。面白いです。


 よく、「あのチームは守備がマズい」という言われ方をすることがあります。実際、相手チームが好き放題にクロスを上げたり、センターバックが頻繁に数的不利(相手の攻撃人数の方が多い状態)に陥ったりして、「あぁ、マズいんだな」というのまでは分かるのですが、具体的に何が原因でそんなことになったのか(数的不利になる前段階で、何が起きていたのか、ですね)、そこまで指摘してくれることは殆どありません。
 本書は、そこまで(むしろそこを中心に)詳しく指摘してくれています。
 私のお薦めとしては、本書を読んだ後、テレビ観戦(で十分分かります)で外国のレベルの高い試合を観ることをお勧めします(私はWOWOWでバルセロナの試合を観ましたが、バルセロナと戦う相手チームの守り方が、まさに正しい守り方をしているのが、薄っすらと分かりました)。


 二番目の感想は、「日本代表は決定力不足をよく言われているけれど、実はそうでも無いんじゃ。。。」ということです。本書では、FWやナカムラ(俊輔)に非効率な守備を負担させていることが度々指摘されていました。こんなに守備で走らせていたら、疲れちゃって肝心な攻撃の時に参加できないでしょう、と。
 日本のゴールシーンを監督が激賞する場面があります。そして、それだけに「彼らをムダな守備で疲れさせてはもったいない」となるのです。疲労が少ない時は、日本の攻撃の質は、案外高いのではないか。普段から「決定力不足」の非難を受けて劣等感を持っている分、なおさら頑張って、実は質を高めてきているのではないか、という想像をしましたです。


 三番目の感想は、「サッカーって、観てて忙しい」ということ。
 本書では、試合の場面場面を切り取って、「ボールがここにあるときは、選手はこのポジションにいるのが正しい」となるのですが、ボールは常に動くわけです。ボールや相手選手の位置によって、頻繁にポジションを移動させる必要があるわけで、それを目で追う方は大変だな、と思いました。テレビ中継よりも生で観戦する方が良い、というのは、そういうところにあるわけですね。
 サッカーって、ずーっと頭を使っていなければならないスポーツなんですね。


 四番目の感想は、「日本代表選手個々人は、戦う気持ちを強く持っていることが分かった」ということです。上の方に書いた「好きなセリフ」は、日本代表の試合を分析した5人のイタリア人監督が持った、共通の感想です。日本はサッカー後進国です。それでも後進国であるが故の、ひたむきさは、決して失われていないということも分かりました。代表人気の凋落著しい昨今、その辺は強調したいところです。


 最後にもうひとつ、誰か本書に対する反論を書いてくれないか、というのもあります。本書は、ある意味欠席裁判です。検察側が日本代表を有罪とする証拠を一通り並べたので、次は、日本代表側弁護で、その証拠をひとつひとつ反論する、というようなのも欲しいです。岡田監督も、ここで指摘されていることを認識した上で、あえて何かに挑戦しようとしているのではないか、もしくは、やむを得ない事情があるのでは、とか、そういう話ですね。
 あ、でも、それは幻想かな。ジーコ代表監督の時に、「あれだけジーコがイケるっていうのだから、本当は強いのかしら」と迷っていたら、思い出してもトラウマになるような豪州戦後半に遭遇しちゃった、という事例もありますし。。。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…4/5点(状況解説図と見比べながら読みましょう)
読後に何かが残った感じがするか…5/5点(ディフェンスから試合観戦ができるようになりました)
繰り返し読めるか…4/5点(逆に、繰り返し読まないと頭に定着しないでしょうね)
総合…3/5点(同じような指摘が繰り返し登場して、途中で少し飽きました)