五郎治殿御始末
わりに合わないことばかりしている人へ、あるいは、逃げ遅れてる人へ
いずれ鉄道が敷かれるとなれば、飯田橋の名の残して消え去るさだめであろうが、そのときはまた小役人の矜りにかけて抗ってみようと大河内は思った。
【私的概略】
「壬生義士伝」「憑神」が映画化されるなど、幕末・明治維新を舞台にした時代小説を得意とする浅田次郎氏の短編集。
徳川幕府が滅び、職を失うことになった武士たち。ある者は商人に、ある者は役人に、ある者は軍人に、ある者は人力車夫になって、時代の生け垣を乗り越えて明治の世の中に溶け込もうとします。本作に登場するのは、時代の生け垣を乗り越えることをためらっている侍たち、あるいは、乗り越えようともがいている侍たちです。
掲載されているのは以下の6篇。それぞれ3,40頁の短編です。
椿寺まで
子供が主人公。ラストが泣かせる
箱館証文
困窮する侍が、昔とった突拍子もない借金証文をかたにお金を工面しようとする話
面白いが、やや切ない
西を向く侍
和算術と暦法を専門とする優秀な侍が、明治政府による西洋暦導入に翻弄される話
自分の専門分野に誇りを持つ侍の気概が清々しい。
遠い砲音
アワーズ(時)・ミニウト(分)・セカンド(秒)。彦蔵は、軍隊に導入された西洋の時間概念がどうしても理解できない。
ハッピーエンドですが、これもこれで切ない。
柘榴坂の仇討
仇討のために藩を飛び出したものの、明治維新により藩は潰れ、明治政府により仇討が禁止されて、文字通り始末に困った侍の話
ラストの、仇討の原因になった旧主君の笑顔が◎
五郎治殿御始末
明治維新により解体される藩の後始末をし、家を始末し、最後に自身の始末をつけた老武士と、その孫の話
泣ける。
【感想】
文庫の裏に本書の概略が「江戸から明治へ、侍たちは如何にして己の始末をつけ、時代の垣根を乗り越えたか」とありました。
この手の概略は、自分の読後の感想と微妙に異なる場合が多いのですが、この本については一致してました。そういう内容の本です。
私の先祖は、愛媛県今治市で侍をやっていました。しかし、家系にまつわる歴史は、私の祖父からスタートしています。私の祖父は幼いころに戦争で父や親族を失い、母親とともに、母親の実家に居候をしていた、というのがスタートです。祖父の幼いころの「戦争」というのが、何の戦争のことか、それすら分かりません。その「戦争」の向こうは闇に包まれ、30年前に祖父が亡くなった今や、詮索のしようもありません。そんなことを、本書に登場する「時代の生け垣」とダブらせながら私は読んでいました。
掲載6篇はどれも、切なかったり、笑えたり、泣けたりする、浅田氏らしい作品ですが、短編だからしょうがないのか、それぞれ印象が薄くなりがちなのが残念。私は短編の楽しみ方が分かってないのかな。。。
【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点
読後に何かが残った感じがするか…2/5点(残ったような気がする)
繰り返し読めるか…3/5点(時間を空ければ、また)
総合…3/5点(私、短編は印象が薄くなるもので)