黒い遭難碑 山の霊異記
登山は基本的に一人で行く人へ、あるいは、山に行くことを考えるだけで軽く2,3時間は色んな妄想ができる人へ
- ISBN(13桁)/9784840134316
- 作者/安曇潤平
- 私的分類/怖い話(現代・山)
- 作中の好きなセリフ/
山は怒っているのだ
【私的概略】
山を舞台にした山岳怪談実話シリーズ。
前作「赤いヤッケの男」から2年、怪談作家として有名になった作者が、山を趣味とする人たちから集めた怪談の数々です。
怖い話特有の、理不尽な霊的脅威が迫り来る話や、正統派な幽霊話(いわくつきの場所にテント泊して怪異に遭うとか)、気味の悪い怪物状の亡霊に襲われる話もあれば、山男の友情風な話も。
幅広くカバーされております。
【感想】
安曇潤平氏は、相当な登山愛好家です。氏のWEBサイト「北アルプスの風」なんかは、全て北アルプスで埋め尽くされています。
前作の「赤いヤッケの男」と同様、山岳実話系の怪談ですが、前作と比べて怪談のバリエーションが増えました。単なる実話風怪談だけではなく、物語としての余韻や質を重視したストーリーが登場するようになり、前作との違いを発揮すべく作家的な意欲を燃やした形跡が、好ましいと思いました。
とはいえ、限られたページ数では、新規の話が増えれば、前作同様の実話っぽい怪談話の数が減るのも当然のことで、そういう話だけを期待して(要は前作と寸分違わず同じ傾向の話を期待して)本作を買った、私のような超保守的読者には、実話怪談の印象が弱くなって少し不満が残りました。
最も怖かったのは、『三途のトロ』
岩魚釣りの男がテント泊。近くに黄色いツェルトが張られていたけれども、夜になっても持ち主が来る気配が無い。夜中を迎えて案の定、男に怪異が起きる。という、安曇氏の怪談の常道パターンなのが○。
単に怖いだけではなく、ところどころ愛嬌を感じさせたりして、それこそが「街の怪異」とは違う「山の怪異」なのだと思いました。
最も印象に残ったのは『黒い恐怖』
熊でもない。ゴミ袋でもない。山中で遭遇した、ゾワゾワとうごめく黒い塊の正体は何か? 怪談ではないかもしれない。現代人への警告、という話。
単体では印象薄かったかもしれませんが、他の作品の間に、こういう話が挟まっているのが良かった。
哀しい気分になったのは『真夜中の訪問者』
カタ カタ カタ 夜中、一人山中泊する男のテントの外をグルグル周る謎の音。男は怖くて外に出られません。
山中に子供の遊具が転がっていて、それが怪異に絡むのですが、子供を持つ親である私は話のストーリーから逸れて「遊具の持ち主の子供に何が起きたのだろうか?」凶事を想像して、勝手に哀しくなってしまいました。私は、子供がひどい目に遭う話が極端に苦手なのです。
『真夜中の訪問者』に限らず、テント泊で起きた怪異がよく登場します。
テント泊した人なら、より一層想像できると思いますが、
テントの外が霊の世界で、テントの中が恐怖に一人震える自分の世界、中外を隔てるのはテントの薄い布1枚、というテント独特の安心感と、実は境界が薄い布だけという恐怖感のバランスが、ゾクゾクします。
小気味良かったのは『山ヤ気質』『滑落』
前作には無かったタイプのお話。実話っぽくはなく、切れ味の良い2ページほどの超短編です。怖いというより、どこか外国のジョークみたいで面白かったです。
私的に不発だったのは『鹿神旅館』
山中で道に迷ってたどり着いた村は、人の気配が無い奇妙な村。泊まった旅館は女将も親切で居心地が良いけれど、何かが気になる。その原因は、、、段々と謎が明らかになって最後に大円団を迎えて欲しいところですが短編なので一気に収束します。それでも良いのですが、これ1本で100ページくらいのストーリーにして欲しいところ。
山村。たくさんの謎。怪異。。。たまらないテーマです。
全部で20話、200ページ強。満足な量です。
【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点
読後に何かが残った感じがするか…2/5点(遭難碑の近くでは怪異が起きるということが分かりました)
繰り返し読めるか…3/5点(間を空ければ)
総合…3/5点(「怖い話」本の中ではレベルは高い方です)