考古学と古代史のあいだ

邪馬台国に興味のある人へ、あるいは、自宅の近くに古墳がある人へ

  • ISBN(13桁)/9784480092441
  • 作者/白石太一郎
  • 私的分類/教養・日本史(考古学)
  • 作中の好きなセリフ/

このように古墳の成立が三世紀の中葉すぎまでさかのぼるとすれば、それはまだ卑弥呼の後継者である壱与の時代であり、明らかに邪馬台国時代です。


考古学と古代史のあいだ (ちくま学芸文庫)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 邪馬台国卑弥呼の後、紀元後3,4世紀の日本史は、資料が乏しく、謎の多い時代です。邪馬台国は、その後どうなったのか?天皇家を擁する大和王権は、どのようにして誕生したのか?著者は古墳の発掘研究を長く続けてきた専門家で、謎の期間を考える時の材料も、やはり古墳です。
 著者は日本中の古墳について、形状や埋葬方法、分布や年代推定といった考古学調査を長年積み重ねてきました。その積み重ねから、卑弥呼時代直後に古墳の形状が急速に規格統一されたことを発見し、古墳を造営できる強力な権力が存在した地域や、権力の性質(祭政一致とか、連合王国とか、そんなの)の変遷を推定していきます。

 邪馬台国は、どこにあったのか? 邪馬台国から大和王権へ、どのように権力が移っていったのか? 「古事記」「日本書紀」は、どの程度真実を語っているのか? 大陸から来た騎馬民族が日本を征服して大和王権が誕生したという説は本当か? 等々、日本史好きなら一度は疑問を持った(そして、参考資料が乏しくて推理することを諦めていた)古代の謎も、大胆に推理。興奮する一冊です。




【感想】
 私のロングセラーは、小学館から出ている「漫画日本の歴史」です。少年の私は漫画が好きだったので、親があきれるほど繰り返し読んで、おかげさまで日本史には全く苦手意識が有りませんでした。漫画に登場した卑弥呼の顔なんかも、いまだにハッキリと覚えています。
 私が読んだのは二十年以上昔の話。あれから版が変わって内容も変化したようですが、私が読んだ版では、1巻(縄文・弥生時代)と2巻(古墳時代)の間に隔絶がありました。1巻の終わり、卑弥呼邪馬台国を訪れた中国の使節団が帰国するのですが、その頁に『邪馬台国の後、200年間は日本の歴史は不明です』というような記載で結ばれていました。続く2巻では、今の天皇の先祖であるという仁徳天皇がいきなり登場。そもそも天皇家が日本史に登場した経緯というような興味のある話題はダイジェストで軽く触れられているだけで、子供心にも、「卑弥呼の子孫たちはどうなったんだろう?」とか「なるほど、日本史には謎につつまれた期間があるのか」と、ポッカリ口を空けた暗闇を妄想してゾクゾクしたような覚えがあります。


 今回読んだ本は、まさにその暗闇の部分に光をあてた内容です。前々から知りたいと思っていた領域ですが、古代に関する知識というのは、資料が少ない分、想像憶測妄想の類が簡単に割り込める世界です。根も葉も無い噂話を完全に排除した知識を得るには、アカデミックな世界で、この分野で真摯に研究を続けてきた人の話を聞きたい。しかし、そういった人の説明は、素人には分かり難かったり興味の対象がズレていたり、あるいは推理が慎重過ぎて素人には退屈だったりと、なかなかフィットする本がありませんでした。
 この本は、アカデミックな態度を崩すことなく、なおかつ(日本史好きの)素人にも分かるような説明で、素人が興味を持続できる程度に大胆に推測をしてくれて、大いに満足です。


 ちなみに、これらの大胆推測の内容が正しいものかどうか、それは私ごときには分かりません。他にも色々な学説があるでしょうから。しかし、厳密な研究を重ねた末の大胆な推測であって、適当な大胆予想とは次元が異なることだけは、読んでいて私にも分かりました。
 とあるエラい人が言っていましたが、学問に関する本は、「これは、こうなんだ」と明確に言い切ってある本が、一流の本かどうかの違いなんだそうで。明確に言い切るためには、間違っていないかどうか事前に厳しく調査しておかなければならず、そういう厳しい研究態度で学問をしているか否かが、一流の本とそれ以外との分岐なんだそうです。そういう意味で、一流の研究者の研究成果に触れることができました。


 良い本に出会えたと思います。




【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…4/5点(まぁ、読めます)
読後に何かが残った感じがするか…5/5点(古代史の知識が)
繰り返し読めるか…3/5点(しばらく間を空けて再読すれば、また発見が)
総合…4/5点

考古学と古代史のあいだ (ちくま学芸文庫)
白石 太一郎
筑摩書房
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