のぼうの城

能ある鷹が爪を隠しすぎて今や爪がどこにあるか分からなくなった人へ、あるいは、司馬遼太郎の本が重くて読めない人へ

  • ISBN(13桁)/9784093861960
  • 作者/和田竜
  • 私的分類/歴史小説(戦国末期)・読みやすい本
  • 作中の好きなセリフ/

ならば無能で、人が良く、愚直なだけが取り柄の者は、踏み台となったまま死ねというのか。
「それが世の習いと申すなら、このわしは許さん」
長親は決然といい放った。


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【私的概略】
 戦国時代の終焉。日本国の大半を手中におさめた豊臣秀吉は、抵抗する北条氏を制圧すべく、関東に大軍を送り込みます。関東には、北条氏に服属している小豪族がたくさんいて、豊臣の大軍勢の前に風前の灯火です。


 忍城を本拠とする成田氏も、そんな小豪族の一つです。
 当主の成田氏長は内密に豊臣に降伏すべく密かに使者を派遣し、豊臣秀吉は成田氏が早々に降伏すると分かったうえで愛弟子ともいうべき石田三成を成田氏攻略軍の大将に任命し、率いる軍勢は成田軍の十倍二万という大軍勢で、迎え撃つ形になる成田軍は当主の成田氏長が小田原材番のために不在で代理の成田長親は評判のでくのぼう。降伏するに決まっています。ところが、降伏勧告をした豊臣家の使者の高慢な態度に怒った成田氏が大反発、徹底抗戦を選んで豊臣軍は大誤算です。


 愛すべき曲者ぞろいの成田氏の家臣たち。でくのぼう大将の成田長親に率いられ、10倍以上の豊臣軍に、いかに立ち向かったのか?
 史実にも有名な成田氏の籠城戦を、作家の和田竜氏が現代ぽい感覚織り交ぜて語ります。




【感想】
 軽いです。10倍の大軍を率いる敵に立ち向かうハラハラするシチュエーションと、人の良いだけの大将が率いる一騎当千の仲間たちという魅力ある登場人物。人物の心の動きやセリフの一つ一つも、歴史小説の硬さは無く、現代が舞台のテレビドラマに近いです。司馬遼太郎とか海音寺潮五郎とか、小難しい印象で読み難いという読者でも、当作品はストレスなく読めると思いました。


 登場人物のなかでは、私は石田三成が好きです。ふた昔前とか「徳川家康豊臣秀吉織田信長、誰が社長をやっている会社が良い?」みたいな話がありましたが、それで行けば、私は石田三成が社長の会社で働きたいくらい。


 石田三成は、関が原で徳川家康に負けた大将という印象が強いですが、自分の家来達に対しては誠実で、家来を大事にする人物だったそうです。島左近という侍の武勇を見込んで、自分の知行(収入みたいなの)の半分を割いて召抱えています。島左近に限らず、見込みのある人物を自分の収入に不相応なくらいたくさん集めたため、石田三成の家中では、三成自身の収入は中くらいのレベルだったといいます。
 また、礼儀や行儀にうるさい人物ということで堅物なイメージですが、それも主人の豊臣家を思ってのこと。石田三成の死後、浅野長政大阪城の風儀を評して「三成がいた頃は、こんなザマではなかった」と嘆じています。浅野長政石田三成と仲が悪く、三成憎さに徳川家康についた人物です。そんな人物でも三成の真面目さ自体はかっていた、という話です。


 本書では三成は敵役ですが、そんな三成の愛すべき生真面目さも、よく出ています。




【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点(軽く読めます)
読後に何かが残った感じがするか…2/5点(読後感は爽快)
繰り返し読めるか…3/5点(間を空ければ)
総合…4/5点(爽快感があった)

のぼうの城
のぼうの城
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和田 竜
小学館
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