親鸞(三)

いつも他力本願な人へ、あるいは、親鸞のことをよく知らない人全般へ

なむあみだぶつの六音のうちには、もっと宏大無辺な感謝と真心と希望とがこもっておりますのじゃ


親鸞(三) (吉川英治歴史時代文庫)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 浄土真宗の始祖、親鸞の生涯を綴った物語です。吉川英治の初期の作品で、発表当時、菊池寛が「この時代の中に親鸞を捉えるという大手腕は、この著者をおいては考えられない」と絶賛した作品です。全三巻のうちの、最終巻。


 法然たち念仏宗の繁盛を嫌う旧仏教界は、法然親鸞憎しの思いを日増しに強めていきます。法然の弟子たちの行為を逆手にとらえ、朝廷に、念仏禁止・法然親鸞の京都追放を命令させます。
 師匠の法然とも離ればなれになり、妻と子供を京都に置いて、親鸞は越後(新潟)に追放されることになりました。越後での生活は、最初のうちこそ地元の領主に冷遇されて苦しい日々でしたが、次第に信仰が根付いていきました。やがては隣国のみならず、関東にまで親鸞の教える信仰の環が広がっていきます。


 親鸞の教勢が日増しに盛んになると、それに圧迫された山伏たちが親鸞暗殺を計画しました。その山伏は、親鸞の幼なじみで、親鸞を妬み、ことあるごとに親鸞を陥れようとしてきた、弁円でした。(弁円的には)親鸞との宿命の対決も、これで最終決戦。最終巻にふさわしいラストに向けてひた走ります。



【感想】
 昔読んだ歴史学習漫画に親鸞が登場していました。親鸞は関東に流され、そこで山伏の訪問を受けます。山伏は親鸞必殺の気概で親鸞に対しますが、一瞬で自らの誤解に気付き親鸞に屈服した、というようなストーリーでした。最終巻の、山伏弁円との対決は、この歴史漫画の内容と重なります。吉川英治氏の創作だと思っていたのですが、歴史漫画に似た話が載るくらいなので、どこかに原典があるのかもしれません。


 第一巻から最終巻まで通して敵役の山伏弁円は、親鸞が思い悩んでいる時、その悩みを暴いて、親鸞が世間で暮らせないようにしようとするのですが、それが結局親鸞の修行になるという不思議な役回り。また、山伏弁円自身も、親鸞を妬み続け、結果としてそれが修行に励む原因になるという不思議な効果。弁円は「嫌なやつ」キャラなのですが、気付けば、親鸞と弁円はまことに不思議な縁で結ばれていた、という大円団につながるのです。
 そんな縁、本の中だけだよと思うのですが、「人を幸せにする話し方」の平野秀典氏も似たようなことを言っています。彼の講演は人気があるのですが、そのなかで「あなたが人生で出会う全ての人は、あなたの人生の共演者です。嫌な人も、あなたの人生でわざわざ敵役を務めてくれる共演者なのです。地上に何億人もいる人間のなかで、その人と出会ったのは、ものすごい縁です。そう考えれば、嫌な人も、単に嫌なだけの人とは思えなくなります。」というような趣旨の話をしていました。
 人生の達人ともなると、そういう風に考えるわけですな。今のところ達人ではない私には、遠くに浮かぶ雲でもみているような心境です。


 最後にこの本自体のお話をば。
 少しだけ気になったところを言えば、登場人物が多すぎてさばききれていないような印象を持ったこと。最初に登場した牛若丸や金売り吉次、また、山伏弁円の幼少期のお守り役、親鸞の最初の子、等、この本で意味のある役目を負うのかと思っていたら、不意に消えてしまう登場人物が何人かいました。ストーリー自体に影響は無いので、構わないとも思うのですが。
 全体の印象をというと、水戸黄門的ストーリーです。悪役がいて、最後に改心して善い人になる、というのを繰り返していきます。その繰り返しの中で、二巻・三巻になるほど、親鸞の教え(の雰囲気)が現れてきます。親鸞の教え(の雰囲気だけでも)を、私のような物わかりの悪い人間でも分かるような本を、と思って探していたので、私は満足でした。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点
読後に何かが残った感じがするか…4/5点(親鸞の教えの、雰囲気的なものが)
繰り返し読めるか…3/5点(間を置けば、また読めるでしょう)
総合…4/5点(4か3か、微妙なところ。私は4と判断)


親鸞(三) (吉川英治歴史時代文庫)
吉川 英治
講談社
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