親鸞(一)

いつも他力本願な人へ、あるいは、親鸞のことをよく知らない人全般へ

今日までは、骨を砕かれ、肉をやぶられても、この口は開くまいと、心を夜叉にし、固く誓っておりましたが、十八公麿様のやさしさに、あわれこの夜叉も、弱い人間の親に立ち回りました。いわずにはおれぬ気持ちが急なのでござる。お聞きとり下さい。それがしの自白を


親鸞(一) (吉川英治歴史時代文庫)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 浄土真宗の始祖、親鸞の生涯を綴った物語です。吉川英治の初期の作品で、発表当時、菊池寛が「この時代の中に親鸞を捉えるという大手腕は、この著者をおいては考えられない」と絶賛した作品です。全三巻のうちの、第一巻。


 後の親鸞こと十八公麿(まつまろ)は、落ちぶれた藤原家に生まれました。しかも、母は源義家の娘。平家全盛の当時は肩身の狭い境遇です。
 鹿ケ谷の陰謀に端を発する、平家転覆をたくらむ政情不安。平家は、源氏の血をひく十八公麿(まつまろ)への監視と迫害を強めます。十八公麿(まつまろ)に災いが及ぶことを恐れた父は、まだ幼い彼を、慈円僧正のもとで出家させました。
 やがて慈円僧正とともに比叡山に登り、周囲の嫉妬をかいながらも順調に修行を積んだ範宴(はんえん・十八公麿の法名)は、若くして、その学才を広く知られた存在になります。



【感想】
 少し迂遠な話を以て感想に代えますと、
 司馬遼太郎氏は若い頃、京都で寺社担当の記者をやっていて、その時の経験から、本願寺に対して強い親近感を持ったようです。戦国時代を扱った彼の歴史小説やエッセイにも、本願寺一向一揆、そして彼らの信じるところの教えが度々登場しています。
 本願寺室町時代本願寺第八世、蓮如上人によって急速に教勢を拡大しました。司馬遼太郎氏は彼を英雄的人物と評しています。
 ちなみに、司馬氏は、蓮如上人は経済感覚の発達した人物とも評しています。これは、織田信長以前に「大阪」の地理的重要性に気付いた数少ない人物だからです。蓮如上人の後、戦国時代になり、本願寺一向一揆織田信長と激しく戦いました。本願寺の本拠は石山本願寺ですが、石山本願寺の始まりは、蓮如上人が生玉庄の「大坂」に大坂坊舎を建立したことによります。そして、文献上「大阪」という地名が登場するのは、これが最初だそうです。そういう意味では、「大阪」の先祖とも言えますね。


 そんな、バイタリティ溢れる活動をした蓮如上人の浄土真宗。その浄土真宗直系の始祖が、親鸞上人です。
 司馬遼太郎好きの私も、司馬氏の作品を読んでいるうちに親鸞に興味を持っていました。ある時、とある作品の中で『親鸞の教えを知るには「歎異抄」を読む必要がある。あるいは吉川英治氏の「親鸞」でも、その雰囲気を知ることができる』とあったので(深入りするつもりも無かった私は、「歎異抄」ではなく)、「親鸞」を読んでみることにしました。


 親鸞の第一巻は、まだ、その教えの神髄に触れるところには至っていません。幼い頃から将来偉人になることが明らかだったというエピソードが盛り込まれ、二巻以降に対して「水戸黄門」的予定調和の安心感を持たせます。親鸞の修行を結果的に助けることになるであろう人物群も次々登場し、スタートラインに立ったと思えるところで第一巻は終了します。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点
読後に何かが残った感じがするか…2/5点(次巻に期待)
繰り返し読めるか…3/5点(間を置けば、また読めるでしょう)
総合…3/5点(次巻以降に期待)


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