竜馬がゆく (八)

竜馬のことをよく知らない人全般へ

  • ISBN(13桁)/9784167105747
  • 作者/司馬遼太郎
  • 私的分類/歴史小説(幕末・維新)・爽快な話
  • 作中の好きなセリフ/

天に意思がある。
としか、この若者の場合、思えない。
天が、この国の歴史の混乱を収拾するためにこの若者を地上に下し、その使命がおわったとき惜しげもなく天へ召しかえした。


新装版 竜馬がゆく (8) (文春文庫)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 後に、維新史の奇跡と呼ばれた坂本龍馬の生涯を、司馬遼太郎の視点から捉えた代表作。
 全八巻の最終巻。
 竜馬の提案した大政奉還案は始め、味方の薩摩・長州にも難色を示されるほど難航しますが、今や竜馬を奉戴して京都政界に乗り出す土佐藩士が協力して幕府や薩長の説得にあたります。その最中、海援隊士が長崎で英国人を斬った、という事件が起こり、土佐藩は英国との交渉にも追われる羽目になりました。
 大政奉還はいかにして成ったのか、そして竜馬の最後は。


 主な登場場面は、土英戦争騒ぎ・大政奉還竜馬暗殺



【感想】
 前半は、後藤象二郎です。英国人水平を海援隊士が斬ったとして、英国公使が怒鳴り込んで来るのをいなしつつ、時に脅し返したり、引いたりしながら話を手打ちにさせた一連の下りは、「欧米列強の脅しに対して常に卑屈になっていた日本」というイメージと異なりました。
 外交上の約束ごとは、一方が相手に約束を履行させる実力が無ければ(裁判所があるわけでもないですし)、反故にされても何も言えないものですが、その約束を決める段階では、道理を尽くして相手と対峙しなければならないもんなのですね〜。いや、めんどくさい。


 この巻で坂本竜馬の神髄が現れている場所は、大政奉還が成った際、感泣して
 「おれは徳川慶喜のために死んでもよい」と言った辺りです。立場的には倒幕派な竜馬ですが、幕府に敵対する薩長土が大事なわけではなく、日本全体が大事であるという思想の発露です。
 革命戦争で日本を荒廃させることなく革命を成就させた、その革命に、敵対者であるはずの将軍、徳川慶喜が協力した。慶喜の自己犠牲の尊さを思い、竜馬は感泣したわけです。
 英国史名誉革命というのがあり、それは無血革命だったことを誇るための名称ですが、「竜馬がゆく」に登場する大政奉還は、それ以上の名誉ある革命だったと言えるでしょう(史実は多少違うように思いますが、そういう視点もある、ということで)。


 ただし、政治の世界に、オールオッケーということは、なかなか存在しないようです。無血革命も然り。戦争によって幕府を倒そうと準備を進めていた薩摩長州の勢いをどこか別に向けなくてはなりませんでした。竜馬は、幕府亡き後の新政府プランを提示し、薩摩長州が次に目を向けることを提示します。
 薩摩も長州も何のわだかまりも持たなかったのか。これまで仲間だと思っていた竜馬が急に土佐藩と組んで大政奉還を実現し、薩長で戦争して倒そうと決意していた相手を一瞬にして(政治的に)消してしまった。一説によると、この辺りのギャップが竜馬暗殺の原因になったとも言いますが、、、作者は竜馬暗殺部分にはあまり関心が無いようなので、ここでは書かないことにします。


 織田信長と同じく、坂本竜馬がそのまま生き続けたら、どんなことをやったのか。そして、日本にどんな影響を与えただろうか、天才を惜しむ気持ちが改めて湧きました。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…4/5点
読後に何かが残った感じがするか…4/5点(そんな気はする)
繰り返し読めるか…4/5点(なんといっても最終巻ですから)
総合…5/5点


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