フェルマーの最終定理

余白が狭すぎる人、あるいは、数学に興味の無い人へ

  • ISBN(13桁)/9784102159712
  • 作者/サイモン・シン
  • 私的分類/教養(数学)・知的欲求を満足させる
  • 作中の好きなセリフ/

私は、良さの哲学というものをを持っています。それは、数学はその内に良さをそなえていなければならないということです。


フェルマーの最終定理 (新潮文庫)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 Xのn乗 + Yのn乗 = Zのn乗
 nが2より大きい正数の場合、上記方程式には整数解が無い。


 『私はこの命題の真に驚くべき証明を持っているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない。』
 数学の天才フェルマーが書き残した、真実とも、いたずら書きともつかないメモを証明すべく、多くの数学者が悪戦苦闘を繰り返した歴史を、数式そのものや、小難しい理論そのものには触れず、素人にも分かるように綴ったノンフィクション。


 BBCテレビで放送された番組と、取材メモ等の内容をもとに書籍化された。


【感想】
 いきなり話が飛びますが、東野圭吾原作の映画「容疑者Xの献身」
 主人公の湯川と、犯人の石神が出会うきっかけとなったのが数学史に名高い「四色問題」です。
 あの映画の中で石神が、「あの証明は美しくない」とつぶやくように言っていました。
 数学は高校までの私には、「何のことやら」でしたが、それなりに背景のある発言だったようです。


 「四色問題」は、証明に100年以上かかった名うての難問です。最後はコンピューターを使って実際に千何百通りの値を入力しての証明でした。高校で私の知る数学は、紙と鉛筆と自分の頭を使って証明するものでしたが、その辺のギャップが「あの証明は美しくない」という石神の発言につながっていたのでしょう。


 「フェルマーの最終定理」という題名ですが、この定理の証明方法の解説書ではありません。むしろ、解説自体は、殆ど気配くらいしか載っていません。
 ギリシャ時代の数学の発生から始まって、アレクサンドリアの図書館に古今東西の知識が集められ、数学の書物も多くが集められた話、また、図書館が焼亡した際、多くの数学の知識が失われてしまった話、数学会の女性迫害の歴史、数学の天才フェルマーの人生、等々、フェルマーの定理の周辺の話が豊富です。


 その豊富な話題の一つ一つが興味深い話の連続です。それらが、素人の私をして、なんとなくフェルマーの最終定理の凄さを理解させ、それを証明することの困難さを素直に思わせました。真正面から定理の証明の話をされていたら全く理解できなかったでしょう。


 この本を読んでよく分かったのは、数学とは単なる数字遊びでは無い、ということです。
 数学の定理は絶対の真実であり、他に絶対の真実といえるものはキリスト教の真理しかないことから、数学が非常に重んじられた時代があったことや、
 砲弾の弾道計算や月の満ち欠けの予想、暗号解読など、軍事面で数学が多大な貢献をしたことなど、かなり実学に近いものといえるのではないか、という印象を持たせました。
 では、自分の子供たちを数学科に進めるか、といえば、「う〜ん」です。なんとなれば先ほどの「四色問題」のように、今後はコンピューターで定理を求めることになりそうな気配が見えたからです。


 そんな具合に、この本は題名からの印象と違って、数学全般に関する情報を得られました。数学素人の私でもそれほどの気分になれた、満足のいく本だったと思います。


【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…3/5点(数学の話ですが、それほど困難を感じません)
読後に何かが残った感じがするか…2/5点(多くの人が苦労した、ということだけ分かりました)
繰り返し読めるか…3/5点(しばらく間を空けて再読すれば、また発見が)
総合…3/5点


フェルマーの最終定理 (新潮文庫)
サイモン シン
新潮社
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