哄う合戦屋

山本勘助風な人物のファンへ、あるいは、司馬遼太郎の本が重くて読めない人へ

  • ISBN(13桁)/9784575236644
  • 作者/北沢秋
  • 私的分類/歴史小説(戦国中期)・読みやすい本
  • 作中の好きなセリフ/

いや、有り難いことでござる。随分と長い間、こんなにも楽しい夢を見させて戴けたとは


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【私的概略】
 戦国時代中期、武田信玄上杉謙信が勃興しつつあった頃のお話。
 長野県中部の土豪、遠藤家の下に、孤高の軍才を持つ浪人者が流れてきた。石堂一徹というその男、人付き合いが悪く同僚からも畏怖され、家臣団からも浮き上がる。しかしながら、何せ戦功抜群、というか、殆ど彼一人で戦いに勝っているので主君でも粗略に扱えない。
 隣接する豪族との耐えない小競り合い、将来確実に来るであろう武田信玄の侵攻。ギクシャクしている遠藤家はどのような結末を迎えるのか。
というお話。


 作家養成ゼミ第2期作品。出版社は、原稿を書いた北沢氏との間で1年間に渡って念入りに書き直し作業を行い、表紙イラストも人気漫画家の志村貴子氏を起用。推薦文も読書家で有名な杏さんにお願いして、この作品にかなりの熱意を注いでいます。



【感想】
 書評なんかでは、「史実をもとに」なんて書いてありますが、主人公の石堂一徹や、主人公の主家である遠藤氏は、架空の人物です。
 石堂一徹は山本勘助的な人物です。何年か前の大河ドラマ山本勘助をやっていました。軍師の才能に溢れる山本勘助は、しかしながら偏屈で、周囲になかなか受け入れてもらえません。この本の石堂一徹も、山本勘助と同じキャラクターです。


 石堂一徹を家臣に取り立てた遠藤氏は、中信地方の山間の小豪族。内政に優れ、領民や家臣にも慕われている、立派な人物です。石堂一徹を登用したときは、互いに望み望まれの間柄だったのですが、一徹の活躍によって遠藤氏の領地が増えれば増えるほど、主従の間に歪みが大きくなっていきます。
 領地も大きくなったことだし、ここらで一息ついて内政に力を入れたい遠藤氏。息つく間もなく領地拡大戦争を続けなければ武田に滅ぼされてしまうと考える石堂一徹。路線をめぐって対立するようになったのです。


 しかしながら、よく考えると、こんなギクシャクした感じは、現代の会社でも(多分、学校の部活や、私生活で関わるサークル活動でも)あるわけですね。同僚や先輩後輩に「ちょっとコイツ、クセがあって面倒くさいな」というような感情を持つことは、多かれ少なかれあるわけで、それでも、そんな連中と一緒になって仕事や練習を頑張ったり、疎遠になったり飲み会やったりして、不景気なご時世にめげずに会社やクラブを維持していく、というのは、遠藤家と同じなわけです。


 そういう意味では、
 「彼らの守った場所が、今も変わらずにあればいいと祈りたくなる 杏(モデル・女優)」
 本の帯に書かれたメッセージ、私も素直にそう思いました。


 最後に、本全体の印象を。全体に読みやすく、言い回しも現代語風に違和感無く、「歴史小説は重くて読めない」という人にも敷居低い感じです。この敷居の低さがこの本の最も良いところですし、私も気軽に読むことができました。
 一つ難を言えば、収束が急なこと。終わりに至る過程をもう少し書き込むと、読後感がもう少し印象強く残ったのでは、と、残念でなりません。逆に言えば、簡単に収束した分、それだけ気軽に読める、とも言えますが。


【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点(軽く読めます)
読後に何かが残った感じがするか…1/5点(軽く読めたもので)
繰り返し読めるか…3/5点(軽く何回も読めるでしょう)
総合…3/5点(歴史小説が苦手な人が読めば、もっと高得点になるはず)


哄う合戦屋
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北沢 秋
双葉社
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