竜馬がゆく (七)

他人が西向けば東を向く人へ、あるいは、竜馬のことをよく知らない人全般へ

  • ISBN(13桁)/9784167105730
  • 作者/司馬遼太郎
  • 私的分類/歴史小説(幕末・維新)・爽快な話
  • 作中の好きなセリフ/

「坂本さんが、時勢の孤児になる、と申したこと。孤児は言いすぎだった」
「言いすぎどころか」
竜馬は夜風のなかでいった。
「男子の本懐だろう」


新装版 竜馬がゆく (7) (文春文庫)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 後に、維新史の奇跡と呼ばれた坂本龍馬の生涯を、司馬遼太郎の視点から捉えた代表作。
 全八巻の第七巻。
 時勢は次第に薩摩・長州に傾いていきます。坂本竜馬の興した貿易会社は、利潤追求の経済結社としての側面から他の中立諸藩を惹きつけ、彼らをやがて倒幕側に向かせるべく、社業隆盛のため奔走を始めました。
 そんな竜馬の活躍に目をつけた土佐藩は、竜馬の貿易会社(海援隊と改名)と相互協力の体制を築いて幕末の政局の主導権を握ろうとします。竜馬が案出し、土佐の藩論となったのは、薩摩・長州の掲げる武力倒幕方式とは異なり、欧米につけ入る余地を与えない無血革命方式、大政奉還です。
 倒幕に息巻く薩摩長州を説得し、かつ、幕府をも説得するべく、竜馬は都に上ります。

 主な登場場面は、勝海舟徳川慶喜の確執・後藤象二郎との会談・海援隊創設・いろは丸衝突・岩倉具視登場・四賢候会議・船中八策大政奉還案出


【感想】
 世の中のことというのは、善悪や理論の正否で動くのではなく、利で動きます。明治維新も同じで、倒幕するのが正しいから徳川幕府がつぶれたのではなく、この話の6巻終わり辺りで、幕府軍が長州一藩に負けた時点で「徳川は弱い。長州に味方した方が良いのでは」という、長州をある意味先物買いする人たちが出現し、これが次第に増えてくるとブームになり、やがて、勝ち馬に乗り遅れてはかなわんとばかりに長州(と薩摩)味方がワッと増えていくことになります。


 最初から長州の味方をしていたグループ(利ではなく、理論に従って長州の味方をしていた、尊皇攘夷とか勤皇倒幕派の人たち)にしてみれば、普通、長州が勝った後で急に味方になった連中なんて、馬鹿にしたくなるものですが、竜馬はそうじゃない。むしろ、利で以って出来るだけたくさんの味方をかき集めることを奨励します。味方を増やさなければ朝廷を味方にできないし、世論も味方しないわけで、正論云々よりも、勝つことを優先した、いわゆる男性的でドライな計算ができる人だったわけです。


 単にドライなだけの人物なら、後世、これだけ多くの人に支持されることはありません。支持される竜馬の特徴を表す一端が、大政奉還です。大政奉還は、薩摩長州による武力倒幕という流れに逆らうもので、これまで竜馬の仲間だった勤皇派を裏切りかねない策です。しかし、日本を取り巻く海外情勢を見れば、薩長と幕府が戦って互いに疲弊すれば、それだけ新国家の再建に時間がかかり、場合によっては欧米列強の支配を受ける羽目になるかもしれません。大政奉還による無血革命こそが、日本を救う最善の策だったわけです。


 まず、視野の広い思想があって、それを実現するために冷静な計算ができる(他の熱狂的に暴発した勤皇の志士と対照的です)。まったく竜馬という人物はすごいなと思いました。


【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…4/5点
読後に何かが残った感じがするか…4/5点
繰り返し読めるか…4/5点
総合…4/5点(竜馬の真髄がこの巻に一番よく現れていると思います)


竜馬がゆく〈7〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
文藝春秋
売り上げランキング: 1629