竜馬がゆく (四)

天を仰いで悲憤するのが好きな人へ、あるいは、竜馬のことをよく知らない人全般へ

  • ISBN(13桁)/9784167105709
  • 作者/司馬遼太郎
  • 私的分類/歴史小説(幕末・維新)・爽快な話
  • 作中の好きなセリフ/

武市は最後に、島本、島村の両人の手をにぎり
「事、ここに至るのは、天命である。三人それぞれ牢舎を異にするであろうから、いま別れればこんどは黄泉以外では再会できまい。たがいに、男子の大節、凛乎として俗吏の心胆を寒からしめよう」
といった。


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【私的概略】
 後に、維新史の奇跡と呼ばれた坂本龍馬の生涯を、司馬遼太郎の視点から捉えた代表作。
 全八巻の第四巻。

 尊皇攘夷運動が、反動の時代を迎えました。長州を警戒した薩摩藩は、幕府側の会津藩と手を組み、長州藩を追い落とします。その様子を見た土佐藩の殿様は、土佐勤王党に大弾圧を加え、竜馬の友人、武市も捕縛されてしまいました。

 攘夷運動から距離をおいて神戸海軍塾の運営に熱中する坂本竜馬に、土佐の尊王攘夷論者の希望が集まっていきます。

 登場する主な場面は、清河八郎暗殺・禁門の政変・土佐勤王党弾圧・神戸海軍塾・さな子と婚約沙汰・初の長崎行き


【感想】
 やや、とりとめもない感想ですが。
 この巻は、竜馬よりも、彼の友人達である土佐勤王党や、その首領である武市半平太の死に至る振る舞いが好きです。
 竜馬の明色・柔軟さ・藩からの独立意識に比べて、勤王党は悲憤の暗さ、コチコチの勤王論、藩主への忠義。随分分かり易い対比です。


 武市は日本が西欧列強に浸食されることを悲憤し、勤王論を基に土佐勤王党を起こしました。しかし、京都で長州藩が没落し、尊王攘夷論に逆風が吹くと、藩主にトカゲのしっぽ切りをされてしまいます。
 藤沢周平作品の侍みたいですが、そんな暗さよりも、危地に瀕してのジタバタしない潔さというか、清潔さ、武士のプライドみたいなのが私の印象に残りましたです。


 忠義だのに代表される侍の考え方というのは、現代の尺度で見れば当然理解不能なわけで、「なんでそうなるの?」と歯がみしたくなるような末路を選ぶ侍たちを見て、「侍かっこい〜」なんて気分には無論なりません(竜馬に私たちが惹かれるのは、こういう侍的発想から離れてるからなんですね)。
 ただ、侍の規範を純度高く守ろうする強烈さが、なぁなぁに日々やり過ごしている私には新鮮ですし、明治維新が「武士による革命」であった点、そんな純度の高い人たちによる革命であった点で、日本は幸せだったのかもしれないと、なんとはなしに思いました。


 読者として、ここは、しっぽ切りをした藩主への腹立ちを溜める場面なのでしょう。しかし私は、そんな強烈な清潔さに、爽快さを覚えるのでありました。


【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…3/5点(普通です)
読後に何かが残った感じがするか…5/5点(武士の魂が残ったような気がする)
繰り返し読めるか…4/5点(弾圧される面々の武士らしさが、また読みたくなりました)
総合…4/5点


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