竜馬がゆく (三)
無一文で旅行ができる呑気な人へ、あるいは、竜馬のことをよく知らない人全般へ
アメリカでは、大統領が下駄屋の暮らしの立つような政治をする。なぜといえば、下駄屋どもが大統領をえらぶからだ。おれはそういう日本をつくる
【私的概略】
後に、維新史の奇跡と呼ばれた坂本龍馬の生涯を、司馬遼太郎の視点から捉えた代表作。
全八巻の第三巻。
因循な土佐藩を捨て、天涯の孤客となった竜馬。上洛する薩摩の殿様を擁して、攘夷主義者が倒幕の兵を挙げると聞き、竜馬は京に上ります。
寺田屋ノ変でこの計画は潰え、当面の目標が無くなった竜馬は江戸に行きます。そこで出会ったのが、終世の師匠となる勝海舟。勝の薫陶により、竜馬の倒幕思想は独自の色合いを帯び始めます。
登場する主な場面は、人切り以蔵・寺田屋ノ変・生麦事件・勝海舟に師事・おりょうとの出会い
【感想】
私たちの持つ「龍馬」像は、維新の立役者、海援隊、というところですが、この巻から次第にその片鱗があらわれてきました(前の巻までは、青春剣豪小説という感じ)。
この巻の頃は、後に維新の功績者と呼ばれることになる偉人たちが、未だ机上の空論のような尊皇攘夷に凝り固まっている時期です。そんななかで竜馬は「積極的に国を開き、貿易で以て富を築き、その富を基に、海外の列強と対等の立場を得るべきだ」という勝海舟の説に賛同し、神戸に海軍塾を創設すべく東奔西走しはじめます。
勝海舟は、尊王攘夷論者から奸賊として命を狙われる立場、攘夷論者に友人知己を多く持つ竜馬は、彼らに真意を疑われつつも、話をそらしたり、すらしたり、かわしたり、誤魔化したり。通常なら、こんなことするやつは「軽薄で信用できないやつ」ですが、竜馬がやると、そうは思えない。
最終的に目指すところは攘夷論者と同じだからなのか、剣術で鍛えた攻防の呼吸を応用しているからなのか、読む人によって解釈は色々だと思います。要は「未だ正面から議論したら、彼らとケンカ別れになってしまう。友としてそれはしたくない」というような、やさしさがあるのだろうと、私なんぞは思いました。
いやはや、大事も始めはこのような態度と心根で為すべきなんだろうと、30代になって初めて知ったような次第です。
この巻から、仲間とは違う発想をする竜馬像がハッキリとしてきます。これが、この本を読む人を魅了し、龍馬ファンを増やす理由なのでしょう。
【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…4/5点(気軽に読めます)
読後に何かが残った感じがするか…4/5点(龍馬の思想が次第に明瞭になってきます)
繰り返し読めるか…3/5点(3回くらいは読める。その都度、龍馬のセリフに新しい発見が)
総合…4/5点