竜馬がゆく (二)
無一文で旅行ができる呑気な人へ、あるいは、竜馬のことをよく知らない人全般へ
「もうよい、竜馬。いったい、読めもせんで意味ばァ、わかるちゅうのは、どういうわけじゃろかなァ」
「わからん。わしは文字を見ちょると、頭に情景が絵のように動きながら浮かんで来おる。それを口で説明しちょるだけじゃ」
【私的概略】
後に、維新史の奇跡と呼ばれた坂本龍馬の生涯を、司馬遼太郎の視点から捉えた代表作。
全八巻の第二巻。
剣の道に励み、留学先の道場でも塾頭になった竜馬ですが、それだけに没頭しきれない自分がいるのを感じていました。そんな中、時代は尊皇攘夷運動が盛んになる兆しを見せ始め、竜馬も、なんとなくそれに傾倒していきます。
登場する主な場面は、中岡慎太郎登場・土佐への帰国道中・吉田東洋・長州遊説・脱藩
【感想】
冒頭から中岡慎太郎が初登場です。こういうのを異骨相というのでしょうか、うゎ〜ホントにこんなのがいたら、すごく付き合いヅライな〜、という感じですが、本の中なら格好良く、いわゆるキャラが立ってる感じです。全八巻の中で長く脇役を務められそうなくらい、かといって不自然に出過ぎないところが○です。
江戸の藩邸で中岡に初お目見えの後、江戸留学の期限が切れた竜馬は土佐に向かって無銭帰国旅行。呑気な竜馬が泥棒の家来と二人連れの道中で騒ぎを起こす様は、名作、東海道中膝栗毛のようで、維新史物語の悲壮感は殆どゼロです。
この、とことん明色な感じが、竜馬の魅力なんでしょうね。一説に、坂本龍馬が全国区の有名人になれたのは、司馬遼太郎のこの作品こそが原因である、という話がありますが、それも一理あると思わせます。
後半、吉田東洋という土佐藩重臣が登場しますが、彼の行いが、この竜馬物語の象徴です。
藩内下級武士で構成される尊皇攘夷派から見れば、吉田東洋は不倶戴天の敵です。竜馬自身も下級武士で、彼らの盟約に加盟しているので、吉田東洋は、このお話では敵役になるわけです。
しかし、後生の我々の常識から見て、刀振り回して黒船を追い払えと言う尊王攘夷派よりも、外国の知識を導入して土佐藩を近代化しようとする吉田東洋の方が正しくうつります。そして、当の竜馬も(藩内での小さな争い自体を見下しつつ)、本当は吉田東洋の方が正しいと思っている。
この後の話で、並み居る維新の英雄たちのなかで、竜馬は頼みの綱とされるわけですが、その理由が、この東洋話のなかに現れていると思いました。
【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点(二巻の時点では、まだ気軽です)
読後に何かが残った感じがするか…3/5点(二巻の時点では、未だそれほどでは)
繰り返し読めるか…3/5点(間を置けば、読めます)
総合…4/5点