スポーツ・ノンフィクション選 熱狂のアルカディア

スポーツ観戦が好きな人へ、または、戦術論だの技術論しか語らないスポーツ記事に辟易している人へ

  • ISBN(13桁)/9784163708508
  • 作者/藤島大
  • 私的分類/ルポ(スポーツ全般)
  • 作中の好きなセリフ/

練習が始まる。止める。蹴る。動く。単純な動作は完璧に連続する。技術を語るには役が重い。ただし、確信は得られた。
イタリアは勝つ。


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【私的概略】
 藤島大氏は、早稲田大学ラグビー部出身のスポーツライター。2002年ミズノスポーツライター賞受賞。「Number」が選ぶスポーツノンフィクション1位を獲得。
 人物ルポ9編
1.釜本邦茂
 不世出の天才ストライカーはいかにして生まれたか
2.吉田義人
 不遇のラグビー選手
3.前田智徳
 アキレス腱断裂が心身にのしかかった広島カープの天才打者
4.宿沢広朗
 スコットランドに歴史的な勝利をおさめた日本代表監督
5.山田重雄
 女子バレーに金メダルをもたらした監督の光と影
6.安田善治郎
 女子ホッケーをアテネ五輪に導いた監督の、世界一の情熱と知性
7.エンツォ・マイヨルカ
 閉息潜水の世界記録保持者は、シチリアの詩人だった
8.原進
 ラグビーの名手にして、プロレスラー。
9.友川カズキ
 フォーク歌手。バスケット国体制覇無数の名将すら畏れるほど、指導者の才を持つ人物だった
10.ユナイテッドの背番号7をめぐる冒険
 サッカー・マンチェスターユナイテッド
11.前衛思想としての新日鐵釜石
 ラグビー新日鐵釜石の日本選手権7連覇
12.裏切りの予感に包まれて
 2002年ワールドカップサッカーで日本人の共感を呼んだアイルランド
13.知られざる名将、沖縄にあり
 沖縄の高校スポーツ界にいる名将たち
14.老人と海とナカムラ
 中村俊輔(サッカー)と、南イタリア
15.1988年冬・茗溪学園ラグビー部 新しい風の誘惑
 ウェールズ流のラグビーを愛した監督が到達した、個人主義ラグビー
16.酒とイラブの日々
 ニューヨークヤンキースと伊良部
17.1997年11月15日、不滅のアズーリ
 ナポリとイタリア代表サッカー



【感想】
 出版系専門紙の特集記事で、とある出版社の編集者さんが「藤島大さんに胸を張って見せられる本を作ることを常に念頭に置いている」というような趣旨のことを言っていました。「ふ〜ん。そうかい」と思ったはしから出版社も編集者さんのお名前もキッチリと風化させてしまいました。が、「藤島大」の名前だけは忘れませなんだ。調べてみると、どうやらラグビー関係の記事を得意としているようで、ご自身も早稲田大学ラグビー部出身とのこと。あいにく私にとってラグビーはルールが分からなくて敷居高いスポーツ。他のスポーツを題材にした本を書いてないのかと探して見つけたのが、この本でした。


 野球・バレー・アイスホッケー・サッカー+ラグビー。本書で扱っているスポーツは多彩です。私にとってサッカー以外は殆ど興味がないのですが、それでも面白く最後まで読み切れたのは、文章に魅力があったからです。ブツッ、ブツッのぶつ切りの短いセンテンスは、テンポの良さというより武骨な印象が漂います。内容は、スポーツへの情熱というような、感性の部分がメインです。暑苦しい話ではありません。上の「作中の好きなセリフ」のような、なんというのか、こんな感じです。
『釜本のあとストライカーはいませんね。
 浦和レッズGMの森考慈は、語尾を詰まらす調子で即答した。
 「いないっ」』
 この「いないっ」と語尾を詰まらせたところを強調するあたり、作品全体にこういう感じなのです。
 サッカー記事とか読んでると、戦術論が横行しています。そういうのを教養として知っているのも悪くはないが、記事にそればかりを要求するのはどうか。4−4−2だろうが4−5−1だろうが、4−2−4だろうが、「なんでもいいから勝て」と言いたくなります。


 もうひとつ、本作の特徴は、スポーツ界で大成功を収めた大スター選手に力点が置かれていないこと。本作で登場した大スター選手といえば、釜本(サッカー)とジョージ・ベスト(サッカー)くらいのものです。強化費が底を突いてお鉢が回ってきた女子ホッケー日本代表監督の話とか、女子バレーに数々の栄光をもたらした監督のほの暗い側面とか、日本のバスケットボールに少なからぬ影響を与え、本人も望んでいるにもかかわらず監督になることをなかばで諦めた男の話とか。藤島大氏の作品では、長嶋や巨人や阪神は輝かないかもしれません。それが、また、良い。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…4/5点(読める。されど、本そのもののサイズが少々大きい)
読後に何かが残った感じがするか…3/5点(スポーツへの情熱)
繰り返し読めるか…3/5点(間を空けて読み直せば、再度得られるものも多いでしょう)
総合…4/5点