新釈 走れメロス 他四篇

京都を舞台に壮大なファンタジーを描きたい人へ、あるいは、太宰治芥川龍之介の代表作品を目にしたことのない人へ

  • ISBN(13桁)/9784396335335
  • 作者/森見登美彦
  • 私的分類/面白い本・古典的名作のパロディ
  • 作中の好きなセリフ/

芽野史郎は激怒した。必ずかの邪知暴虐の長官を凹ませねばならぬと決意した。


新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 「太陽の塔」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞した森見氏の、京都と古典的名作を舞台にした面白い話短編集。


山月記
 中島敦の同名作品のパロディ。
 京都の大学生、斉藤は青雲の志を秘め、文学に打ち込みます。しかし、文名は一向に上がらず、かつて歯牙にもかけず見下していた同級生達が出世していく噂を耳にし、彼は焦燥感に苛まれます。


藪の中
 芥川龍之介の同名作品のパロディ。
 学生の映画サークルの作品、主役二人の接吻シーンが延々と続くという映画。メイキングの様子を、主役二人と監督が、それぞれの立場から語ります。しかし、同じ事実を語っているはずなのに、語り手によって内容が見事に異なる、という、芥川氏の原作同様「心理の絶対性への懐疑」なるものを突きつけられる作品です。


走れメロス
 太宰治の、あまりにも有名な同名作品のパロディ。
 「友のために走る」というあまりにも有名な原作を、あまりに単純、かつ、あまりに自然で意外な方法を以って裏切りました。


桜の森の満開の下
 坂口安吾の同名作品のパロディ。
 桜満開の「哲学の小道」で出会った女と同棲し、彼女のアドバイスで「男」は急激に売れっ子作家まっしぐらです。しかし、次第に「男」は我慢がならない感情に包まれていきます。


百物語
 森鴎外の同名作品のパロディ。
 鹿ケ谷法然院町のお屋敷に、上の四作品の登場人物も参加して行われた百物語の話。




【感想】
 面白かったです。
 まず、表紙がオシャレです。大正時代ぽい(と言うのかどうか分かりませんが)古臭くなくレトロ感が出ています。表紙中央に、桃色ブリーフが堂々と鎮座しているのが、本書の構成を暗示させ、なおかつ、案じさせます。
 表紙をめくると、「新釈 走れメロス逃走図」なる京都の地図。新釈のメロスが京都をどのように走ったかが分かります。徐々にアップする期待感。この感じが○ですね。
 ただし、「この地図が物語の重要な謎を解く鍵になる」というような新本格ミステリー的利用をされることはありません。


 肝心なストーリーの方ですが、
 (原作を知ってるのは3作品だけですが、)原作の雰囲気を上手に残しつつ、しかし、話を京都まで引っ張って来て、なおかつ、(森見作品らしく)面白く仕立て直していました。
 5作品の中で最も笑えたのは、やはり表題作の「走れメロス」ですね。パロディだと思って読んでたら、良い意味で思い切り裏切られました。しかし、裏切った内容は、原作の「走れメロス」が注視しようとした部分をある意味強調していたような。。。さすがはファンタジーノベル大賞受賞作家の作品です。


 古典的名作のパロディとはいえ、決して古典を読んだことのある人限定ではありません。
 実を言うと、「桜の森の満開の下」と「百物語」は読んだこともありませんが、関係なく読めました。むしろ、こっちを読んでから原作にあたる古典的名作に突撃をかけるというのも、有り得るルートだと思いました。




【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点
読後に何かが残った感じがするか…2/5点(走れメロスの話が特に)
繰り返し読めるか…3/5点(時間を空ければ可能)
総合…4/5点(短編は、さほど好きではないけれど、走れメロスに1点加点)

新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)
森見 登美彦
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