きつねのはなし

京都の大きな和風邸宅ですごしたことのある人へ、あるいは、自分の顔がキツネっぽい人へ

  • ISBN(13桁)/9784101290522
  • 作者/森見登美彦
  • 私的分類/怖い話・京都
  • 作中の好きなセリフ/

「開けてくれたまえ」
天城さんは煙を吹きながら言った。
「中を見ないようにと言われておりますので」
私は頭を下げた。


きつねのはなし (新潮文庫)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 「夜は短し歩けよ乙女」で山本周五郎賞を受賞した森見氏の、京都を舞台にした怖い話短編集。


きつねのはなし
 京都一乗寺の古道具屋、芳蓮堂。芳蓮堂でバイトする「私」は、店の主人に頼まれて、鷺森神社近くの妖しげな屋敷に品物を届けに行きます。妖しげな屋敷の主人の奇妙な頼みごとをきっかけに、「私」は正体の見えない闇に囚われていきます。


果実の中の龍
 シルクロードを旅し、経験豊富な大学の先輩と、それに憧れる「私」との半年間の交流。



 京都御所の東隣にある、入り組んだ町。夜な夜な通り魔が跋扈するという騒ぎが起きています。
 町の酒屋の息子の家庭教師である「私」は、生徒を通して、町の剣道場に通う高校生達と知り合いになります。年下であるはずの彼らが持つ陰は、何が原因なのか。それに気付いたとき、「私」は


水神
 厳格な祖父の死。通夜、祖父との思い出を振り返っていた父と叔父達のもとに、深夜、芳蓮堂という古道具屋が、祖父から預かっていたという家宝を持ってきます。
 家宝が引き金になって起こった怪異の話。




【感想】
 「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話大系」イマイチな学生のムサい学生生活を面白く描く作品の印象が強い作者ですが、こういう話も書けるのですね。学生生活なんかは、ある程度自分の経験を通して書ける要素はあるのでしょうが(モチロンそれでも大変な作業だと思いますけどね)、本作のような怖い話というのは、本当に1から創造力が必要だろうと思うわけで、、、そういう意味では力のある作家さんなんだな、と感心しました。
 それが一番の感想です。


 一番怖かったのが「きつねのはなし」。いわゆるオソロシいお化けが出たり、血がドバドバ出る話ではないのですが、ヤバそうな屋敷のヤバそうな主人と、ストーリーの主人公が、知らず知らず取引を重ねていき、徐々にヤバそうな何かに囚われていく感じが、焦燥感に駆られます。
 例えて言えば、ドリフ『8時だよ全員集合』のお化け話シリーズで、「志村、後ろー!」的な、「登場人物が気付かないけれど、読者は充分気付いている」状態。「何で気付かないんだ! それをやっちゃダメだって!」という焦燥感ですね。良かったです。


 一番意表を衝かれたのは、「果実の中の龍」。いや〜、まさか先輩が、あんなことをしていたとは。瑞穂さんの態度はご尤もですな。。。意表を衝いた事情をここに書くと「ネタばらしに」なってしまいますので、ここでは分かるように書けませんな。


 舞台が京都なのも、そして、一乗寺だの、御所の東隣だの、私の身近なところなのも、個人的には◎です。短編なのが残念、という感想も、個人的な事情です。




【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点
読後に何かが残った感じがするか…1/5点
繰り返し読めるか…3/5点(時間を空ければ可能)
総合…3/5点(私、短編はそれほど好きではないもので)

きつねのはなし (新潮文庫)
森見 登美彦
新潮社
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