首無の如き祟るもの

「自分にお金持ちのお父さんがいたら」と妄想してる人へ、あるいは、最近首が痛くて仕方のない人へ

  • ISBN(13桁)/9784062766456
  • 作者/三津田信三
  • 私的分類/ミステリ(金田一耕助風)・怖い話
  • 作中の好きなセリフ/

井戸の水の表面が、み、妙に黒々してるように見えたから、て、手を入れてみたら、む、無数の長い髪の毛が、お、俺の手に、び、びっしりと張り付いて……


首無の如き祟るもの (講談社文庫)
三津田 信三
講談社
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【私的概略】
 奥多摩に代々続く大地主、秘守家。時代を経て三家に分かれ、一守家を筆頭に、二守家、三守家となりました。三家の中心には、秘守家の守り神であり同時に祟りをもたらす神でもある、淡首様が祀られています。淡首様は、村民に数々の怪奇現象をもたらし、また、一守家を強く呪っている、霊長の強い神様です。淡首様の呪いか、子供がなかなか育たない一守家は、代々の当主に災いが降りかかることを強く畏れ、一守家の子供が十三歳の時は十三夜参り、二十三歳の時は二十三夜参り、花嫁選びの時は淡首様境内での「婚舎の集い」、と、淡首様への儀礼を行っています。


 暗闇に包まれた淡首様境内で起きた、二重の密室状態の殺人事件を契機に、一守家は精神的に歪んでいき、やがて再度の惨劇が起きてしまいます。
 犯人は、一守家転覆を図る二守家、三守家か。それとも淡首様にコントロールされた何者か。あるいは全く関係の無い部外者か。二重の密室にはどのようなトリックが?トリックを超越した霊能力の為せるわざか?
 放浪の怪奇収集作家、刀城言耶の登場が待ち遠しいところです。




【感想】
 刀城言耶シリーズは、ミステリーとホラーの融合が、その特色です。今回も村民が淡首様に遭遇した怪異話が、本筋のミステリーを盛り上げます。。。しかし、他の刀城言耶作品よりもミステリー部分が大きく膨れ上がって、ミステリー部分の結末に大きく影響しています。ミステリー部分に論理的な結末を与えつつも、ホラー的な謎の余韻が残っている。見事に融合していると思います。


 山村を支配する大地主、旧家の家督争い、心の歪んだ人たち、多くの秘められた謎、、、
 「山村の殺人」が題材のミステリに共通するトピックをキッチリ押さえ、なおかつ、ホラー話が無理なく織り込まれていて、面白かったです。例えば、一守家を呪う二守家の呪文と、それを防ぐ産婆の呪文の呪術合戦。その呪術にこそ、ミステリ部分の重要な発生原因が存在したり、ミステリの謎解明のヒントが散らばっていたり、という具合です。


 あえて言えば、ホラー部分が膨れた分、ミステリ(特に犯人当ての要素)部分が小さくなったような。。。犯人の選択肢が少なかったです。そのわりには、論理的にパターン分けして犯人を割り出す(そして行き詰る)、という「本格ものの常道」部分はキッチリ残っているのが、飽きます。私は「本格もの」が好きなのに、このてのパターン分けが苦手なのです。
 ゼイタクかな。




【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点
読後に何かが残った感じがするか2/5点(残った謎が余韻を残す)
繰り返し読めるか…3/5点(時間を空ければ)
総合…4/5点(トリックは面白かった)

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