水魑の如き沈むもの

金田一耕助的な話が好きな人へ、あるいは、遠野物語風な世界が好きな人へ

  • ISBN(13桁)/9784562045419
  • 作者/三津田信三
  • 私的分類/ミステリ(金田一耕助風)・妖怪的怖い話
  • 作中の好きなセリフ/

一つ目蔵に住まわされた人は、水魑様の儀式とは関係なく、普段から贄としての役目を負わされる。そして日常的に、少しずつ水魑様に喰われる。


水魑の如き沈むもの (ミステリー・リーグ)
三津田 信三
原書房
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【私的概略】
 第10回ミステリ大賞受賞作。


 奈良の山奥の村で行われる雨乞いの儀式。23年前、儀式の最中に神男が謎の事故死を遂げて以来、儀式の舞台である湖には怪しいモノがあらわれるようになりました。放浪の怪奇収集作家、刀城言耶は噂を聞きつけ儀式に参加しますが、村で殺人事件に巻き込まれます。


 村の神、水魑様へ献上する不可解な生贄に関する噂話、村人や神男を死の世界に引き込もうとする怪しい霊魂たち、儀式を行う神社に隠された秘密、村人から忌み恐れられる三人の姉弟、謎が横糸と縦糸になって織り成す秘密がいっぱいです。


【感想】
 ミステリなので、ストーリーの細かいところまで言えませんが、三津田信三作品のうち、刀城言耶シリーズは大好きです。金田一耕助の八ツ墓村、悪魔の手毬歌を思わせる、太平洋戦争直後の日本の農村を舞台にして、隠された鍾乳洞、隠された旧家の醜聞、隠された過去の事件、何でも隠されて興奮です。私はこういうのが、たまらなく好きなのです。


 シリーズの中でも今作は、そういった要素が全て登場し、殆ど水戸黄門的安心感すら感じます。
 金田一耕助との違いは、怪異を全て合理的に解釈しようとしないこと。どうにも合理的解釈ができないものは、悪しき妖怪の仕業、というミステリジャンル禁断の結論を下してしまうのが、このシリーズの特徴です。
 結果、怪しいもの全てが事件解決につながる種ではなくて、本当に「ただの」幽霊の仕業だった、となる謎もあるわけで、ある意味それがミスリードにつながったり、ストーリー全体の薄気味悪さを盛り上げてくれたり、事件が解決したのに幽霊の方は未解決のまま話が終わって怪奇な余韻を残したり、以外に良い味を出してます。
 これがなかったら、単なる金田一の模倣作品に過ぎなかったでしょう。


 また、おどろおどろしい事件というのは、生理的に嫌悪したくなるような動機や手段が登場したりして読後感を悪くしてしまう作品がありますが、今作は、結構読後感は良かったです。私的にはこれも重大な加点要素。わざわざ本を読んでまで嫌な思いをする必要はありません。


 また、当シリーズの探偵の特徴として、名探偵が関係者を集めて「さて、、」という土壇場になって未だ、試行錯誤しながら解決を探り当てていく、という、ややドタバタ感のあるどんでん返しがあります。作品によっては、あまりにヒックリ返りすぎて着いて行くのが面倒になったりするのですが、今回は程よい範囲で収まっています。これも加点要素です。


 満足です。普段は通勤電車でしか読書しないのですが、今回は続きが気になって自宅でも読んでしまいました。さすがは本格ミステリ大賞受賞作です。どんな賞なのかは知りませんが、ミステリを大量に出している原書房がミステリ大賞だというのだから間違いありません。




【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点
読後に何かが残った感じがするか4/5点(読後感も良かった)
繰り返し読めるか…4/5点(そんなに間を空けずに再読できる)
総合…5/5点(私的には、どストライク)

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