28年目のハーフタイム

サッカーにさほど興味のない人へ、あるいは、金子達仁に「謝れ」(2010年現在)と思っている人へ

  • ISBN(13桁)/9784163532608
  • 作者/金子達仁
  • 私的分類/サッカー(ドキュメンタリー)・日本五輪代表
  • 作中の好きなセリフ/

「もし今のイタリア人選手が、ワールドカップは自分のために戦う、なんてことを公言したら、どうなりますかね」
当たり前のことを聞くなよ、といった面持ちでアンジェロは答えた。
「袋叩きだね、間違いなく。そんなエゴイストは」


28年目のハーフタイム
28年目のハーフタイム
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金子 達仁
文藝春秋
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【私的概略】
 アトランタ五輪サッカー日本代表はグループリーグ初戦でブラジルから奇跡的な勝利を奪いながら、決勝トーナメントに出場することができませんでした。服部、伊東、川口、中田、前園、Jリーグというプロの世界を経験して選ばれた、日本サッカーの歴史でも極め付きの有望な五輪代表。
 彼らがブラジルを破ることができたのは何故か? そして反対に、急速に失速したのは何故か?


 スポーツ誌Number」に投稿しようとする若手が一時「金子達仁」ぽい書き方であふれた原因ともなった金子達仁氏の代表作。



【感想】
 サッカー情報といえば、サッカーマガジンやダイジェストしか知らなかった自分が、初めて読んだ「それ以外の情報」でした。情報発表+分析が主体の雑誌とはひと味違って、ドキュメンタリータッチの内容が新鮮でした。
 金子氏が関係者へのインタビューを積み重ね、人物の育った背景にまで思いを巡らせ、表面に現れなかった五輪代表の内面を浮き彫りにしていきます。


 GK川口の中学・高校時代の苦悩、未成熟な協会と不要なマスコミのプレッシャーに耐える西野監督、読んでいて義憤を禁じ得ない話に思わず読み手がのめり込みます。私はそういう話が大好きなのです。
 ただ、これはあくまでも金子氏が自分の取材を通して組み立てた「自分の意見」。後日金子氏自身が告白しているように、この件では前園選手への取材が無かったため(取材しても自分の意見は変わらなかったと金子氏は重ねていますが)、片手落ちの感無きにしもあらず、というような世評を受けました。


 しかし、この主張のハッキリしているところが、良くも悪くも金子作品だと思います。
 2002年のW杯終了後、「Number」で金子氏がアイルランド代表等を引き合いに出して「日本独自のサッカースタイルの模索」を訴えたのを私は今も覚えています。オシム監督が「サッカーの日本化」を唱え、周囲がそれに群がるまでは、そこからさらに4年を待つことになります。
 2010年W杯では、本番前に「日本は3連敗した方が、日本のためになる」的な主張をしたところ、実際には日本は決勝トーナメントに出場できたために「謝れ」という大合唱袋叩きにあっているのは記憶に新しいところです。
 まさに、良くも悪くも主張がハッキリしているのです。自分の名前を顔写真付きで世間にハッキリ出して、こんなに主張がハッキリしているのは、相当な根性の持ち主だと思うのですが、どうでしょうか。


 最後に、上の「好きなセリフ」について。
 日本の若い選手が、ヨーロッパ風個人主義を勘違いして「オリンピックは自分のために戦う」と言ったことがあるのを、金子氏が批判的に捉えた箇所です。
 後年、日本代表ユニフォームに日本国旗が付くようになった来歴として、当時代表だったラモスが「俺たちは日本代表であって、Jリーグの上手い選手選抜じゃないんだ」からと懇願した、というような話を聞きました。1人のサッカー好きとしては、こういうセンスが好きですね。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点(あんまり頭使わないですから)
読後に何かが残った感じがするか…4/5点(集団競技はキレイ事だけではない、と)
繰り返し読めるか…4/5点
総合…4/5点

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