RUN 流浪のストライカー、福田健二の闘い

お父さんへ、あるいは、サッカーといえば「キャプテン翼」しか知らない人へ

  • ISBN(13桁)/9784478002483
  • 作者/小宮良之
  • 私的分類/サッカー(選手半生記)・泣ける話・爽快な話
  • 作中の好きなセリフ/

なら、優しさは捨てろ。プロサッカー選手としてプレーするならな。結果を出して、より高いレベルでプレーする。それでいい。おまえは家族を背負ってるんだ


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【私的概略】
 愛媛FCで攻撃の主柱としてプレーする(2010年現在)、福田健二選手の半生記。福田選手は、将来を期待されてプロ入りしたFWの選手。当時名古屋グランパスを指揮していたベンゲル監督に「日本を背負って立つFWに育てたい」と言わしめたほどです。その後Jリーグを飛び出し、パラグアイ、スペイン、ギリシャの各プロサッカーリーグを渡り歩き、最近、故郷の愛媛FC(現在J2)に戻ってきました。


 なぜJリーグを飛び出し、ことさらに過酷な海外にこだわりつづけるのか。幼くして、両親の離婚、母の死を目の当たりにした彼は、母が遺した短いメッセージ「好きなサッカーで世界に胸を張れる選手になって下さい」の意味を、ひたすら突き詰めていったためでした。
 全ては結果次第の厳しいプロ生活。不安定な生活の中で、福田選手を支え、また、福田選手が守ろうとする、「家族」によって、福田選手は人間として成長していきます。



【感想】
 本書の特徴はノンフィクションらしさです。「単純成功物語」とは一線を画す、一人のサッカー選手の挫折と苦闘と(素人目には少しの)成果を描いています。普段のニュースなんかでは、日本代表や海外で活躍する選手の話ばかりに目が行きがちですが、プロ選手の多くは、そんな華々しさから離れた場所にいます。そんなことを思い起こさせる内容です。


 この本の、もう一つの特徴。福田選手は本書の中で「妻も子供も自分(福田選手)も、家族みんなが外で戦っている」そんな感じのことを言っていました。この考え方、好きですね。福田選手の家族に限らず、普通の家族でも、職場で、学校で、保育園で、家族みんな、戦っていない人は、いないんです。私は共働きですが、1歳の子供を初めて保育園にやる日、私も同じことを思っていました。


 ただしそれは、「親の身勝手」とスレスレなのかもしれません。
 そういう意味では、福田選手の家庭の場合も、福田選手が点を取れば子供も幼稚園で英雄になり、活躍しなければ幼稚園でいじめられる、(考えようによっては)子供がかわいそうではあります。しかし、「みんなが戦っている」ことで、「家族がまとまっている」と思える瞬間があります(たいていそれは、何か困ったことが起きた時ですが。。。)そんなわけで、福田選手の言ってることに、父親として共感しましたです。
 家庭に恵まれてはいなかった福田選手の少年時代、家族に支えられた海外生活時代の話を通して、この本は、単にサッカー選手の苦闘物語だけではなく、「家族の役割とは何か。父親の役目とは何か」というようなものも考えさせられます。


 最後に、福田選手のキャリアにからむ話を少々。
 福田選手がスペイン2部で最も大活躍したクラブ、ヌマンシア。1部リーグへの昇格を逃した後、福田選手は「クラブが本気で1部昇格を考えているのか疑問を感じる」として他のクラブへ移籍しました(本書にも登場する場面です)。ところがそのヌマンシアは、翌シーズン(翌々シーズン?)1部昇格を果たし、ホームで迎えた開幕戦ではバルセロナに勝利までしています。
 偶然WOWWOWでその試合を観ましたが、ユーゴスラビア出身(多分)の監督によって高いレベルに組織された守備陣形が、バルセロナの侵入を厳しく阻み、逆にカウンターで1点を奪うという展開。バルセロナとの圧倒的な戦力差を考えれば、いっそ胸がすく、と言っても良いくらいジャイアントキリングな試合でした(今もDVDで保存してあります)。スコアは別にして、レアルマドリードとも良い試合をしたと思います。
 結局、そのシーズンは1部リーグ最下位で2部に逆戻りしてしまうのですが、ヌマンシアは、明らかに前線の選手層が薄かったです。福田がいれば、(クラブは福田をFWの中心に考えていたのですから)確実に1部リーグの試合に出場できていたでしょう。福田選手の魂を表すかのように真っ赤なユニフォームを着て、バルサやレアルに対峙する姿を「見たかった。。。」心の底から絞り出すように、そう思います。


 本書を読むと福田選手自身の思いは、そんなこととは別の所にあるのは分かりますが、この推移を客観的に眺めた時、サラリーマンにとっては重要な示唆を与えています。「軽はずみな転職は禁物」ということですね。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…4/5点(時々うるっと来ます)
読後に何かが残った感じがするか…4/5点(家族とは何か)
繰り返し読めるか…4/5点(十分可能です)
総合…4/5点(サッカー好きにお奨め)


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【他サイトでの紹介】
福田健二選手のブログ
更新頻度は高くないですが、福田選手の人柄が分かります。