水木しげるの遠野物語

遠野に行こうという人へ、あるいは、妖怪好きな人全般へ

  • ISBN(13桁)/9784091828798
  • 作者/水木しげる
  • 私的分類/民俗(妖怪)・マンガ・敷居の低い本
  • 作中の好きなセリフ/

「みんな妖怪ですよっ!!」
「むほっ!!」


水木しげるの遠野物語 (ビッグコミックススペシャル)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 「遠野物語」は1910年に発表され、日本民俗学スタートの記念碑的存在となりました。
 著者は柳田國男氏。遠野(岩手県)の人、佐々木鏡石氏の協力により、遠野に伝わる昔話を収集、編纂して作られました。
 ザシキワラシ、カッパ、天狗といった、現代人にとってもポピュラーな妖怪や、山男や山女といった「山の怪異」の話、オシラサマ、コンセイサマ、オクナイサマといた地元の神様の話が満載です。

 遠野は、岩手県の真ん中、山々に囲まれた盆地の小都市です。「遠野物語」が世間に与えた印象を大事にして街並みや観光地の整備を続け、「民話の里」として今も日本人の旅愁を誘います。本書は、「遠野物語」発刊100周年を記念して、水木しげる氏(ゲゲゲの鬼太郎の作者)がマンガ化したものです。



【感想】
 昔、頑張って読んだ柳田氏の「遠野物語」は、表現も古く(100年前なのだから当然)、つっかえつっかえ読まざるを得なかったので、内容は殆ど理解できませんでした。
 このマンガのおかげで、ようやく「遠野物語」の内容が腹に落ちました。これから遠野に行く人は、柳田氏の「遠野物語」よりも、こちらを読んだ方が良いです。


 10年以上前、私も遠野を旅行したことがあります。遠野は良いところです。しかし「受け身」な旅行には向いていません。遠野のバイブル「遠野物語」を読んで想像力をふくらませて、駅前でレンタサイクルを借りて現地を廻れば、小さな祠や何気ない水車にも感動することができます。ひとしきり廻って汗をかいた後遠野ビールは最高です(まだあるのかな)。
 そんな、能動的な旅行をしようという人にお薦めの本なのです。


 また、本をマンガ化やテレビ化すると、内容が大きく削られたりするものですが、本書は柳田「遠野物語」の内容をキッチリ残しましたね。残しすぎてマンガのストーリーの流れがギクシャクしそうなくらい頑張って残しました。エラいと思います。水木氏の解釈も追加されて、内容も分厚くなってます。
 水木氏は自他ともに認める妖怪好き。いわば大先輩の柳田氏が書いた「遠野物語」を、非常に大事にしているなという感じです。


 水木イズム全開の表紙も良いです。石の感じが○。右下に寝っ転がってるカッパの色が赤いのも、遠野のカッパは赤い(普通は緑です)のが特色であることを表現しています。本書に挿しこまれた4つのコラムと現代遠野図も、遠野への旅愁を誘って、うまくまとまっています。
 マンガとはいえ、ちゃんと本屋で買って、書棚に置いておく価値は十分にあります。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点(マンガですから)
読後に何かが残った感じがするか…4/5点(「遠野物語」そのものを読むより頭に残った)
繰り返し読めるか…4/5点(スルスルッといけます)
総合…4/5点(遠野に行く人、水木マンガのファンが1点加点)



【関連する書籍】
「続ものがたり風土記
遠野物語」をより深く理解したい人向き。柳田氏の「遠野物語」執筆にあたって重要な役割を果たした、遠野の人、佐々木鏡石氏。「不遇のうちに死んだ彼は、柳田氏の偉大さに押しつぶされた犠牲者ではないか」作家の阿刀田氏が自戒も込めて思いをはせる段は印象深いです。