サッカースカウティングレポート 超一流のゲーム分析

目の肥えた観客になりたい人へ、あるいは、友達を試合観戦に連れて行って良い格好をしたい人へ

  • ISBN(13桁)/9784862550378
  • 作者/小野剛
  • 私的分類/サッカー(評論・日本代表)・教養(スポーツ観戦)
  • 作中の好きなセリフ/

社会が変わればサッカーが変わることは間違いない。けれども私は、サッカーが社会を変えていけると信じています。その信念がなければ、今このサッカー界に生きている意味さえないと言ってもいいでしょう。


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【私的概略】
 筆者の小野剛氏は、日本サッカーに、スカウティング(対戦相手や味方選手の分析)を確立させた人物です。アトランタ五輪ではブラジルの弱点をあぶり出し、「マイアミの奇跡」を起こすきっかけとなりました。また、W杯フランス大会のアジア予選でも、格上イランの特徴を分析し、戦いを勝利に導きました。J1サンフレッチェ広島の監督を勤めたこともあります。


 本書の内容は、
 スカウティングの手法を確立させるまでの苦労話
 スカウティングのノウハウ
 監督たる者の心構えやマネジメントの話(観戦者に有益な情報として)
 アトランタ五輪やW杯フランス大会で行ったスカウティングの話



【感想】
 題名から、「どんだけ戦術一辺倒の本なのだろう」と不安と期待で頁をめくってみましたが、ひと安心。読み物風な挿話や、「日本代表のあの事件の時、実は、あんなことがあって」という歴史秘話的な話もあったりして、スカウティングの話も、レベル的には「少しマニアックな素人がサッカー観戦に有益なツールを手に入れました」というクラスの内容でした。高度なスカウティングのテクニック論一辺倒で読者を飽きさせる、というような本ではありませんでした。


 逆に言えば、この「テクニック論に終始しない姿勢」こそが、小野氏の考える「スカウティング」なのかもしれません。本書にもある通り、『スカウティングは最終的に選手一人ひとりを輝かせるためのツールであり、それ自体が上に立つものではない。主役は、あくまで選手たち』なのです。ツールとしてのスカウティングの説明だけでは、スカウティングの話にならないのでしょう。
 サラリーマンの世界でも、「アメリカから導入した○○理論に則って作ったツールだから、とにかく使え、やれ使え、いいから使え」と現場の意見を無視して押し付けられたけど、地に足が着いてないから浸透しませんでした、なんて、よく聞かれる話。一流の人は、現場との融合を決して忘れないわけですね。
 私も、この本を読んでいて感動したのは、そういったテクニック論以外の「小野氏の思い」の部分だったりします。


 まぁ、そうは言っても本書を買う人の主な目的は、「サッカーを分析する視点」。
 そういう意味で役に立ったのは、スカウティングのノウハウをまとめた「スカウティング分析ポイント」の頁と、「スカウティングノートの書き方」のところ。サッカーに割ける時間も少ない私のような素人が「スカウティングノートの書き方」を完全にマネできるはずもありませんが、ツールとしてはちょっと面白いと思いました。


 そして、以下は蛇足な付け足しですが、
 W杯フランス大会の思い出の部分。アジア予選で主導権を握った戦いをするには4バックが適していたけど、本大会で強豪国相手に劣勢の戦いをするときは3バックが良いと考え、戦い方を変えることにした、という記載がありました。
 この感想を書いている時点(2010年6月初旬)では、南アフリカ大会の結果は分かりませんが、本大会に入る前の日本代表がアジアチーム相手に不甲斐ない戦い続けています。
 これも、「本大会で劣勢の戦いを想定して、本大会モードの戦術を模索しているため」であって、決して「どうしていいか分からない状態」ではありませんように。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…4/5点(多少頭を使いますが、読めます)
読後に何かが残った感じがするか…4/5点(書いてあることは有益な情報。ただし咀嚼が重要)
繰り返し読めるか…4/5点(繰り返し読まないと定着しないでしょう)
総合…4/5点(サッカー好きには4点。それ以外の人には3点)


サッカースカウティングレポート 超一流の分析
小野 剛
カンゼン
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