川上善兵衛伝

ワインは好きでも日本産ワインには興味の無い人へ、あるいは、これから難事に取り組もうという人へ

  • ISBN(13桁)/9784484913032
  • 作者/木島章
  • 私的分類/人物史(明治)・マニアックな本(地方史)
  • 作中の好きなセリフ/

「予其の業を起こさむとする時故勝海舟先生にかたりしに先生曰く子が志は好し只お薦とならぬよう用心すべしと戒められたり
(※私的訳:私(川上善兵衛)は葡萄業をやろうとした時、今は亡き勝海舟先生にその考えを語りました。すると先生は「君の志は立派だ。ただ、お金を全て失って乞食にならないよう気を付けなさい」と言われました。)


川上善兵衛伝 (サントリー博物館文庫)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 「日本ワインの父」と呼ばれる川上善兵衛の伝記です。
 自分の生涯と全ての私財を、日本での葡萄栽培・ワイン醸造に費やし、後に「日本ワインの父」と呼ばれました。サントリーワインや、葡萄王国、山梨県のワインも、川上善兵衛の影響を大きく受けています。


 川上善兵衛は、新潟県高田の大地主。明治維新を迎え、明治政府の推進する殖産興業政策の推進、そして何より、生活の不安定な地元農民の収入増(農民救済)を実現するための方途として、地元で葡萄園を建設します。
 葡萄園の運営は、日本の気候風土に適した葡萄品種の研究、本格ワイン醸造技術の導入、国策に貢献できる規模になるための葡萄園拡大、副業を提供するための地元農民の雇用といった具合に、お金のかかることは山積み。莫大な資産をドンドンつぎ込み、財政は危機的状況に陥ります。


 最終的には危機も無事乗り越え、川上善兵衛は葡萄栽培とワイン醸造に大きな足跡を残しました。
 善兵衛の作り上げた葡萄品種「マスカット・ベーリーA」は、現在でも、国産葡萄生産量の10%を占めています。また、多くの国産ワインの原料にもなっています(ワインの裏側のラベルに、よく書いてあります)。
 善兵衛の研究の成果『葡萄全書』は、葡萄業を志す人々のバイブルとなりました。
 また、善兵衛の拓いた葡萄園は「岩の原葡萄園」として今も新潟県に存続し、多くの観光客が足を運んでいます。


 明治維新の功労者、勝海舟坂本龍馬の師匠ですね)は、川上善兵衛に大きな示唆を与えた人物です。『勝海舟の談話』の中で、勝海舟川上善兵衛を讃えている話があります。
『己の所へ尋ねて来る男に随分面白いものもあるよ。越後高田在に川上善兵衛と云ふ者があつて、時々尋ねて来るが、余り口数は利かぬけれど其志は感心だよ。此人は同地方の相応の資産家ではあつたのだが事業を企てる度毎に失敗を重ねて今大分無くした相だけれども決して失望も落胆もしないで到頭本年は遺り通したと云ふ事だよ。(中略)此頃数壜を贈り越したのを飲んで見るに中々立派な葡萄酒になつたよ。此耐忍が迚も尋常の人には出来ない事だよ』



【感想】
 越後高田の岩の原葡萄園。「岩の原」の地名は、川上善兵衛が葡萄園を拓く際、水田をつぶして葡萄園にしてしまっては農民救済にならない、と、自分の家の庭をつぶして葡萄園にしたことから始まります。川上家の庭は、奇岩銘石からなるかなりの名園だったそうで、岩だらけだったことから「岩の原」と呼んだそうです。


 私は、この岩の原葡萄園のワイン「深雪花」の赤が大好きで(白地に赤い雪椿のラベルも◎)、葡萄園の創始者川上善兵衛氏にも興味があったのです。岩の原葡萄園の瀟洒売店でワインを買いあさっていたとき、棚に置かれていた、この本を見つけて即買いしました。
 個人的には「日本ワインの発祥に関して、色々知識が得られて良かった」です。
 ただ、読みたいと思う読者は限られますね。ワイン、しかも日本の、なおかつ、その発祥の歴史に関する情報を得たい人だけです。そういった意味ではマニアックです。


 あと、実際に読む際の注意点、伝記の中で時間が何度も前後します(明治の話→大正の話→明治の話という具合に)。編集の仕方として当然アリですが、途中で、善兵衛氏の人生で発生した各イベントの、前後関係が分からなくなりました。1つの解決策として、読みながら「このイベントは明治37年より前か後か」で整理しながら読むのが良いでしょう。
 そんな、どうでも良いようなテクニックを披露しつつ。。。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…3/5点
読後に何かが残った感じがするか…5/5点(日本ワインの歴史)
繰り返し読めるか…3/5点(時間を空けて、もう1度)
総合…2/5点(日本ワインについて知りたかった私は満足ですが、読者は限られます)


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