よいこの君主論

派閥間の調整に心身をすり減らしている人へ、あるいは、三国志とかが好きな人へ

  • ISBN(13桁)/9784480425997
  • 作者/架神恭介・辰巳一世
  • 私的分類/歴史的名著の解説書・敷居の低い本
  • 作中の好きなセリフ/

たとえば、シチリアのアガートクレやフェルモのリヴェロットといった人物は、その政権の有力者を騙し一堂に集めたところで彼らを皆殺しにし、政権を奪い取ったんだ。それから彼らは人を害することもなく、安泰な地位を手にしたんだよ。マキャベリは彼らの行った極悪非道を『良い極悪非道』だとしているね


よいこの君主論 (ちくま文庫)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 16世紀、混乱と群雄割拠の続くイタリア統一の願いを込め、マキャベリが著したのが「君主論」です。イタリアを統一し、外国勢力の侵略からイタリアを守ることこそが「善」であるとマキャベリは考え、イタリア統一のための手段は問わないという姿勢で「君主論」を書きました。
 このため、手段を選らばず目的を達成する考え方を「マキャベリズム」、考え方を持つ人を「マキャベリスト」と呼ぶようになりました。


 この本は、小学5年生の男の子(ひろしくん)が「君主論」を読み、その理論に従って5年3組を統一(バラバラに存在する仲良しグループを1つにまとめる)するというお話です。



【感想】
 5年3組の中に複数の仲良しグループがあって、クラス支配を目指す各グループのリーダーが興亡を繰り返しながら吸収合併・空中分解しつつ、やがて1つのグループにまとめられていきます。
 その様は、まるで三国志みたいなスリリングさです。


 三国志と唯一違うのは、戦争で人が死んだり、計略に嵌められた人が実際に命を落としたり、財産を失ったりしないこと(学校生活の話なので当たり前ですが)。しかしそのわりに、一つ一つの事件は、三国志に劣らない派手さを持っています。ドッヂボール大会・運動会(の騎馬戦)・遠足・林間学校・クリスマスパーティー・毎日の「終わりの会」、発生するイベントが私達が子供の頃、実際に経験したものだからリアルに感じるのでしょうか。(『しかし、私の小学5年生時代の友達に、こんなにまでクラス支配の欲望を秘めたリーダーがいたかな?』という疑問も頻繁に発生しますが、その辺は目をつぶりましょう。現代を舞台にしたお話では、そんな疑問を持つと成立しなくなりますね。)
 とにかく、小学校生活をここまで三国志化したのは、作者の力量が見事なのだと思います。この人の本は他は未読ですが、こういうのが得意な人なのだろうと思いました。

 
 この本のおかげで、「君主論」そのものにかなり興味がわきました。
 複数ある仲良しグループと、そのグループの成り立ちからリーダーの特性を分類し、その特性ゆえの起こりがちな失敗・成功の話やら、リーダーのあるべき行い・計略を行うにあたっての注意点。それぞれが要所要所で「君主論」に則って解説されています。
 私は会社の歩兵風情ですが、それでも会社内で発生する人間関係に当てはめて心当たりがある、という感じ。下っ端でも心がけておけば、勤務時間を無駄にせずに済む場面が思い当たりました。
 よく、ビジネス書なんかで「君主論から学ぶ」みたいなのが出ていますが、それもご尤もと思いました。


 「マキャベリズム」があまりポジティブなイメージを持たれていないせいか、この本も少しばかりブラックな展開です。子持ちの親としては、ブラックと子供をセットにしたお話は基本的に嫌いなのですが、この本については、それもまた良し。「きれいごと」というのは大人の都合、本音と違うことを強要された途端、人は威力を失います。大人は別として、自分のモチベーションをコントロールしきれない子供のうちから、そんなことをする必要はありませんな。
 そして、「君主論」が書かれたマキャベリの時代は、常に外国勢力の侵略に怯えていた時代。理想論を語る余裕なんて無かった時代です。後世から「悪魔の考え」とこき下ろされたのは、かわいそうな気もします。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点
読後に何かが残った感じがするか…5/5点(人間の良い面も悪い面も)
繰り返し読めるか…3/5点(次は『君主論』そのものを読みたい)
総合…4/5点(ブラックな表現が多いので時折疲れる。それ以外は○)


よいこの君主論 (ちくま文庫)
架神 恭介 辰巳 一世
筑摩書房
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