人物叢書 上杉鷹山
なせばなる人へ、あるいは、上杉鷹山の改革にも大きな挫折があったことを知らない人へ
- ISBN(13桁)/9784642050982
- 作者/横山昭男
- 私的分類/人物史(上杉鷹山)・史実を知る
- 作中の好きなセリフ/
鷹山に関する伝記は日本の伝記書の中でも、もっとも多い部類に属し、広い読者をもったにちがいない。がしかしその割に、史料的あるいは歴史的に、ただしい鷹山像を考えるに充分な伝記は余りに少ないように思う。
【私的概略】
江戸時代中期、事実上破産していた米沢藩を、倹約と殖産興業で蘇らせた、藩主、上杉鷹山の伝記。
いわゆる、良い話・教訓話を集めた偉人伝ではなく、文献、歴史史料をもとに、鷹山が行った個々の政策とその成果・失敗について書かれています(その辺は、吉川弘文館の他の人物叢書シリーズと変わりません)。
大体下記の内容です。
- 生い立ち(家系・若い頃はどんな勉強をしていたか)
- 鷹山が藩主に就く以前の米沢藩の窮状について
- 第一期の改革(農村復興・産業振興・商業統制・学問振興の内容)
- 鷹山引退時期の危機(天明の大飢饉・改革停滞)
- 第二期の改革(農村再編成と観農・産業奨励・商業統制の内容)
- 鷹山の思想(細井平洲との交流・人生観・鷹山の人格者ぶりについて)
- 晩年期
- 鷹山像の形成(明治以後、鷹山が道徳の教科書に載るようになる過程)
私的には、第二期の改革あたりが興味深かったです。
【感想】
上杉鷹山は在世当時から既に名君の誉れが高く、はるか後世のアメリカ大統領ケネディが、最も尊敬する日本人として挙げているほどの偉人です。
鷹山の人生を要約すると
「大借金まみれで破産寸前の米沢藩を、倹約や産業振興によって救い、鷹山の晩年期には多少の貯金ができるくらいになっていた」
有名な成果としては、
「天明の大飢饉の時、周囲の他藩で餓死者が続出するなか、米沢藩だけは一人の死者も出さなかった」
鷹山の思想で有名なものとして、
「人民のための主君であって、主君のための人民ではない」や「なせば成る」
私はひねくれものでして、偉人=完全無欠 という印象を、できるだけ頭から追い払おうとしています。
そんな感じで、鷹山について疑問に思ったことは
- 鷹山が藩主になる前の政策は、本当に失敗だらけだったのか。それと比べて鷹山の政策は、そんなにまでミラクルなものだったのか。どうやって思いついたのか。
- 周りで餓死者続出するような大飢饉で、米沢藩だけは死者が出ない、どんなミラクルな手段を使ったのか(そもそも本当なのか)。
- 「人民のための主君であって、主君のための人民ではない」というのは、いかにも先進的・開明的な感じがする。鷹山が自力で見つけた発想なのか(現代から見れば自然なことだけど、封建時代、何も無いところから急にそんな発想が浮かぶものだろうか)
偉人というものは、突然変異種のように人間の平均レベルをはるかに超越したもんなのだろうか、いつも疑問に思っているところです。昔々、上杉鷹山の生涯がテレビドラマ化され、初めて鷹山を知ったときは衝撃を受けた反面、すぐにそんな疑問がわきました。
詳しく知りたい。そんな私が満足したのが、この本です。この本の著者、横山さんは、山形大学教授を勤め、山形県内の各自治体の地方史もまとめていて、山形県史といえばこの人、ともいえる人で、史実としての上杉鷹山を最もよく知っている人と思われます。
読んで分かったのは、鷹山といえども完全無欠ではないということです。鷹山の現実は、良い補佐役を見つけて抜擢し、停滞や失敗、非難に堪えながら現状にあった施策を選択し、借金を辛抱強くやりくりした挙句、晩年になってようやく、まぁ貯金と言えなくも無い状態の用意ができるようになった、ということだったみたいです。
これを読んで逆に希望を持ちました。これが鷹山なら、今の日本にもどこかにいそうだと。未来に希望無しとは言えない、と。
ただし、鷹山のすごいところは、辛抱強さ、これですな。
本の途中辺りで、改革の停滞の、あまりの厳しさに、読んでいてゲンナリしてきます。結末を知っていてもコレですから、実際に、先が分からない状態で臨んでいた鷹山は、相当な粘り強さです。
鷹山を偉人たらしめたのは、ミラクルな才能ではなく、この辛抱強さにあるのだろうと思いました。
「なせば成る、なさねば成らぬ、なにごとも」とは、実は上杉鷹山の言葉ですが、普段なら聞き慣れちゃって右から左に受け流すこのフレーズも、あの苦労人、鷹山の言葉かと思えば、話はべつ、という感じになります。
分かり易くした読み物とは違います。はっきり言って、語り口は素人向けではありません(私も読んでいて2回、途中で寝そうになりました)。それでも読んだだけのものは得られたような気がします。あ、でも、鷹山好きだけにした方が良さそうですけど。
【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…2/5点(語り口が面白いわけではない、ということで)
読後に何かが残った感じがするか…5/5点(なせば成るのです)
繰り返し読めるか…2/5点(何年か後に再読してみましょう。多分新発見が)
総合…3/5点(上杉鷹山好き限定ですね)