義経北行伝説の旅

頭の中で旅ができる人へ、あるいは、死んだことにして逃げ出したい人へ

  • ISBN(13桁)/9784895443913
  • 作者/伊藤孝博
  • 私的分類/歴史上の謎を追う(日本・中世)・旅
  • 作中の好きなセリフ/

義経が文治5年(1189)に平泉で自害したとする史実には、いくつか不可解な点も感じられる。一方、義経脱出伝説を史実として論証しようとする諸説の中にも、しばしば首をかしげたくなる点が見受けられる。


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【私的概略】
 義経北行伝説とは、「源義経は実は平泉では死んでおらず、北海道まで落ち延びていった」という伝説です。東北地方各地に散在しているこの伝説は、戦後、地元の史家、佐々木勝三氏によって熱心に研究され、1つにまとめられました。
それによると、

  • 各地の伝説は全て「この土地にやって来て、しばらくして別の土地へ移っていった」とリレー式につながっていて、どこにも終点が無い
  • 伝説がある土地は、平泉から津軽まで、おおよそ1本の線でつなぐことができる

=それぞれの伝説が、(おおまかに)つじつまが合っている!=真実だったの?
 という特徴があることが発見されました。
 その研究成果をもとに岩手県では「伝説・義経北行コース」という史跡コースが整備されています。


 本書では、その「伝説・義経北行コース」と大体かぶっているルート+青森+北海道に残る義経伝説の地を実際に巡り、カラー写真付きで紹介しています。



【感想】
 丹念です。南から北へ、各地の伝説の内容が、淡々と載っているのですが、かなり細かいです。北行伝説として注目されやすいのは、平泉から津軽に到るルート上の伝説だけなのですが、その他にも、下北半島や北海道の伝説など、「これだけ回れば漏れは1つも無いんじゃないか」と思えるくらいに回ってます。
 (義経伝説関連の書評では何だか「真摯」とか「丹念」を連発してますが、逆に言えば、そんな感じのする本についてだけ書評を書いているからなのです。真摯さの無い歴史ミステリなんて、お化け話と変わらないと思い、載せていません。そんなわけで、けっして手抜き表現ではないのです)
 特に北海道の伝説は、内容の似ているのが多くて途中で飽きるもの。それをも現地写真付きで、あまつさえ軽く検討まで加えて私見を述べています。この伝説に対する真摯さが伝わってきます。義経北行伝説を史実と考えることには否定的な立場の人で、私見の内容については多少の疑問が湧くことがあるかもしれませんが、真摯なれば、それもまた好し、という感じ。さすがは無明舎出版。東北を代表する出版社です。


 合い間合い間に挿入されているコラムの内容も、興味をひきます。
 例えば、雲際寺の義経の位牌の話。位牌に書かれた義経の戒名「捐館通山源公大居士」が、実は「館を捨て、山を通って遁世(居士)した」という義経が逃げたという意味を含んでいるという、昔からよく言われている噂。その噂を当の雲際寺の住職に尋ねたところ面白い回答が返ってきた、という話は意外でした。
 他にも、江戸時代の探検家、近藤重蔵が、北海道の義経伝説に作為を施した形跡があるという話や、近藤重蔵その人の人柄に関わる話。これも興味深いです。


 余談ながら、
本のお終いに他作品の紹介がありますが、『奥羽永慶軍記』(定価9,870円)なんてのが載っています。東北の戦国時代の様相を江戸時代初期の医者が丹念に取材したという優れものです。その他にも東北風味の商品群が紹介されていて、東北好きとしてはそれらを見るのも面白いです。さすがは無明舎出版。東北を代表する出版社です。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…3/5点(伝説の羅列的な感もあるので疲れます)
読後に何かが残った感じがするか…4/5点(義経伝説に詳しくなった)
繰り返し読めるか…4/5点(間を空ければまた読める。)
総合…4/5点(義経伝説好きには4点。それ以外の人には3点)


義経北行伝説の旅 (んだんだブックス)
伊藤 孝博
無明舎出版
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