義経はここにいる

義経ファンへ、特に、義経北行伝説を信じている人へ

  • ISBN(13桁)/9784198922375
  • 作者/井沢元彦
  • 私的分類/歴史ミステリ(日本・中世)・史実を知る
  • 作中の好きなセリフ/

「無惨な死に追いやった弟の、兄に対し功績こそあれ何の罪も犯していない弟の、怨霊を恐れないはずはない。だから、もし義経が平泉で死んでいたら、死んだと頼朝が信じていたなら、必ず義経の鎮魂のための施設を作るはずだ。だが、そんなものは平泉中を探しても、どこにもない」
「−だから、義経はここでは死んでいない」


義経はここにいる (徳間文庫)(←同作品を扱う他ブログへ)


【私的概略】
 一代で大手建設会社を築き上げた、佐倉雄義。東北出身の彼は自らを、藤原秀衡奥州藤原氏の最盛期を現出させた人物。源義経を奥州平泉で庇護したことでも有名)になぞらえ、中尊寺金色堂を模した自分の墓を用意するくらいの凝りようでした。
 そんな佐倉雄義の死後、後継者を巡る殺人事件が発生します。犯人は「ヨシツネ」と名乗る謎の人物。骨董商の南条圭は事件の犯人を追ううちに、義経北行伝説(義経は平泉で藤原泰衡に討たれたわけではなく、実は生き延びて北海道に去った、という伝説)に触れ、事件と伝説両方の解明に乗り出します。



【感想】
 いわゆる推理小説の中でも、歴史ミステリと言われるジャンルの作品です。
 現実の事件を解決していく過程で、ある歴史上の謎が登場して、最後は両方ともW解決、という欲張りなジャンルです。個人的には、鉄道ミステリ(西村京太郎ですね)と同様に歴史ミステリも、なんだか旅行しているような雰囲気を感じます。歴史と旅行。僕は、そんな黄金の組み合わせを想像するだけで、ご飯が3杯いけます。
 しかし一方で、歴史ミステリは、「現実の事件」と「歴史上の謎」の両者のバランスがエラく難しいジャンルです。両者を1つの物語に登場させる必然性が無ければ、本の印象がギクシャクします。かと言って、必然性を気にし過ぎると、両者(あるいは片方)の謎が小粒になりがちです。そして、バランスが上手くいった作品には、殆ど出会ったことがありません。いっそ開き直って、全くつながりの無い「現実の事件」と「歴史上の謎」を1冊の本に載せて「歴史ミステリ」です、と言い切ってしまった方が、何か突破口が開けるような気がしています。


 本作品を買った時も、歴史ミステリとして期待していたわけではなく、義経北行伝説に関する著作ととらえていました。
 現実の事件とのバランスは、5点満点の3点くらいです。一見低めの点数ですが、他の歴史ミステリ作品に比べれば良い方の数字です。井沢氏の頑張りを感じます(上から目線ですいません)。それでも、歴史上の謎が大きい分、現実の事件が単純に見えたのは、もはや、いた仕方ないかと思います。


 歴史上の謎だけに焦点を当てると、これはもう、大発見の作品だったと思います。井沢氏の歴史への洞察の深さが伝わってきます。買って良かったです。
 細かく書くと読む楽しみが無くなるので、大まかなところを書きますと、
 「平泉には昔から、源義経を祀る施設(墓や寺)が存在した形跡が無い。もしも、本当に義経が平泉で死んだのだとしたら、死者の怨念というものを強烈に信じる源頼朝が、必ず鎮魂の施設を造営するはずだ。これはつまり、源頼朝義経の死を信じていなかった(=北海道に落ち延びていった)ということではないか」というのです。
 義経北行伝説というと、「東北各地に義経の落ち延びた伝説がある」とか「平泉での死は疑わしい状況証拠がある」というような、直接的な観点で語られることが多かったのです。それだけに、「墓の有無」なんてところから源頼朝の心中を合理的に推測し、義経伝説の真相に照明を当てるというのは、目からウロコな感覚でした。個人的には、結論の出し方に異論がありましたが、それは僕がヒネクレているだけのような気もします。



【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…4/5点(さほど難しくありません)
読後に何かが残った感じがするか…4/5点(源頼朝の性格に関する考察)
繰り返し読めるか…4/5点(間を空けて読み直せば、井沢説の理解が深まります)
総合…4/5点


義経はここにいる (徳間文庫)
井沢 元彦
徳間書店
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